#7、寝ても醒めても

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「一人娘の鈴のことが心配なのはわかるけど。ほどほどにしとかないと、もうずーっと口きいてくれないままでもいいの? 私に似て、鈴は頑固なんだから。そのうち戸籍まで抜いて、勝手に婚姻届出されちゃっても知らないからッ」  これでもかというように、父の不安を煽るようなことをわざと言ってのけた。  途端に、顔を青ざめオロオロした様子で気遣わしげに、母と私の様子とを交互に見比べるようにして視線を往復させている父に、最後の仕上げとばかりに、 「隼。ふたりの話、ちゃんと聞いてあげるわよね?」 強い口調で畳み掛けた、揺るぎない母の言葉のお陰で、父が間髪入れずに、 「も、勿論だよ」 と即答してくれたことにより、なんとか話を聞いてもらえることになっている。  こんなところで立ち話もなんだからと言ってくれた母の気遣いにより、コインパーキングから伯父の家の客間へと場所を移したのだった。  そうしてなんとか名刺交換と挨拶も終えた現在、私と窪塚は、今まさに両親というか父と真っ向から対峙しているところだ。  けれども、父に納得してもらえる保証なんてどこにもない。  そうなれば、私はお見合いさせられてしまうかもしれないし、窪塚とももうこんな風に逢えなくなってしまうだろう。  さっきのオロオロした姿が嘘だったかのように、険しい表情を浮かべてこちらをジッと見据えたままでいる父を前に、不安がムクムクと膨れ上がっていく。  どうにか不安に押し潰されないためにも、膝の上で作った拳にぎゅっと力を込めてやり過ごそうとしていた私の拳は、いつしか隣の窪塚の大きくてあたたかな手により力強く包み込まれていた。  一瞬、両親に気づかれやしないかと肝を冷やしかけたけれど、座卓の下なので、気づかれる心配はなさそうだ。  窪塚にどんな意図があるかは不明だが。  ーーそんなに心配しなくても、俺がなんとかしてやるから、安心しろ。  なんだかそう言ってくれているような気がして。  ゲンキンな私の心は、たちまちいつもの調子を取り戻していた。  恋のパワーには凄まじい威力があるようだ。
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