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第1話 ようこそ「勿忘荘」へ
「ここが今日から私が住む家、か」
私の目の前には、とても大きなお屋敷がある。
大きな平屋建てで、町の集会所みたいな見た目の建物だけど、これでもアパートだと言うのだから驚きだ。
失礼な言い方だとは思うけど、田舎ならではという印象である。
それでも、私はこういう場所を求めてここに来たんだ。
ここでの暮らしがどのようなものになるのか、全然想像つかなくて不安はある。
だけど、この場所で一からスタートするって決めたんだ。こんなところで立ち止まってないで、とりあえず中に入ろう。
玄関の引き戸に手をかけ、ゆっくりと開ける。
広い玄関には大きな靴箱が一つあるだけで、中はがらんとしていた。
「すみません。今日からこちらでお世話になる者ですが」
とりあえず声を出してみたものの、返事はない。
管理人さんにあたる人はいないのだろうか。私が今日ここに来ることを把握していないのだろうか。
来て早々に味わうことになってしまった孤独感に、思わず足がすくんでしまう。
もう少し大きな声で呼びかけようと思ったそのとき、正面にあったドアが開く音がした。
そこから現れたのは、私と同じ年くらいの男の人だ。私は手に持っていた荷物を置いて、頭を下げた。
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