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「嘘だろ…」
静香自身が身を引いたわけではないかもしれない。
しかし、少なくとも”最適解”を探しながら千晴に接触する必要はなくなった。
千晴が今後も営業として活躍できることが何よりも安心した。
静香の父親の副社長としての選択に感謝した。
「どうしたんですか」
「あ、いや。なんでもない」
重力に従って携帯電話を持つ手を下ろして安堵しているとちょうど久世と会った。先ほども会ったが相変わらず気だるい雰囲気を漂わせて法人に配属された理由に首を傾げたくなる。企業との商談がメインだから普通はもう少し営業向きの社員が配属されるのだが。
「そうだ、お前に言っておくわ」
「何をですか」
俺の横を通り過ぎて自販機に向かう久世の背中に言葉を投げかける。
振り返る久世を見据える。
「もう最適解、探す必要なくなったんだよ」
「最適解?」
「そう、俺も全力で千晴のこと奪いにいく」
「…受け身の広瀬さんが出来るんですか」
「できる出来ないとかじゃねーよ。やるんだよ」
横一文字に口を結ぶ久世のそれが珍しく歪んだ。
「急に何があったのか知りませんけど、俺だって諦めませんよ」
ふいっと俺に背を向け歩いていく久世を見る。久世だって本気なのはわかっている。
だから俺だって全力で千晴に向き合わないと勝てるわけない。
支店に戻り、外勤の準備をする千晴の背中に声を掛ける。
「外勤、行くぞ」
「はい!」
絶対に、渡さない。
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