【Collection 2】明日、恋だと気づくまで

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「二人ともぉ~! 俺を助けてくれぇ~!」 池やんが大声で叫びながら、ものすごい勢いで走ってくる。驚いている俺達の前まで来たと思ったら、半べそかいたまま俺の服を掴んで()すりだした。 「吉村様! イケメンさまぁぁ! 今回だけはマジで協力してくれー! いや、ください!」 またか、と俺は思った。 池やんこと池屋(いけや)は、同じ陸上部の仲間だ。走高跳をやっている。 高校の頃はインターハイでいつも入賞していたらしいし、全身のバネがすごくてセンスあるいい選手だ。それに池やんが跳んでる姿はめちゃくちゃカッコいい。んだけど、普段はなんというか、ちょっと残念な感じで。 って──そんな事より、俺はさっきの俊の発言が気になっているんだけど、完全にタイミングを逃しちゃって、もう今更聞けない感じになってしまった。 今度、また機会があったら聞いてみよう。 話してくれるかは、分からないけれど。 俺は心の中でため息をついてから、池やんに事情を聞いてみた。でもまぁ、聞かなくてもだいたい予想は出来ている。 「それがさぁー聞いてくれよぉ。明日の合コンなんだけど、来る予定だった奴らがドタキャンしやがったんだ! 彼女できたとか言って! くそ羨ましいっ! そのせいで人数足んなくてピンチなんだよマジで~! だから今回だけはなんとか参加してくんねぇ? 人助けだと思ってさ!」 ほら。 俺と俊はお互いの顔を見合わせて「やっぱりか」って目だけで会話をした。毎回のように合コンに誘われては、その度に断っているから。 うんざり顔の俊が、池やんに向かって言った。 「んな事言われてもなー。俺も翔太もそういうの興味ないって、いつも言ってんだろ? それよりも行きたがってる奴が他にいっぱいいるんだから、そいつら誘ってやれって」 俊は頭をがしがしと掻いている。 「俺だってそうしたいんだけどさー、今回だけはイケメンじゃなきゃダメなんだよ。だからお前ら二人にしか頼めないんだって」 「はぁ? なんだそりゃ」 「実はさ、女子の方の幹事やってる子が俺の高校の同級生なんだけど、前回の合コンで集めたメンツのレベルが低すぎるって超キレられたんだ。だから次はイケメンだけにしろって脅されてんだよ俺」 うわぁ、そんな事言うのか。女の子こわいなぁ。 「だからとりあえず吉村さえ来てくれたらイケメン十人分に匹敵するし、佐伯だって黙ってれば格好いいんだから、俺はどーしても二人がいいんだよ!」 「なんだよ黙ってればって!」 「いててて! だって性格知ったら無理だろぉ」 俊は池やんの頬をおもいっきり引っ張っている。 部活仲間はみんな俊が無茶苦茶やってるところを見てるからな。多分その事を言ってるんだと思う。 「まぁまぁ落ち着いて俊」 俺は俊の手を押さえて止めた。 「あのさ、池やん……俺は合コンとか苦手だから、行っても盛り上げたりとか出来ないし、あんまり役に立たないから。だから困ってるところ悪いけど、他の人当たってみた方がいいと思うよ」 「ホーント分かってないなぁ吉村は」 「え?」 はぁーぁ。と大きいため息と共に池やんが続けた。 「そういう事じゃないんだよ。吉村はそこにいるだけで価値があんの! 場が華やぐの! それに俺達の平均点を爆上げしてくれるし、俺の失いかけた信用もきっと取り戻せる! だからその顔でただ座っててくれたらいいんだよ! むしろ吉村はなーんもしなくていいから!」 「いや、なーんもって……」 さすがに今回は本気で困っているのか、なかなか引いてくれそうにない。 「だいたいお前らもっと大学生活楽しめよなぁ! 俺ら寮生で部活ばっかのやつは積極的に出会いを求めてかないと男に埋もれたつまんない人生になっちゃうだろーが! いいのかよそれで!」 池やんは真剣な顔でそう言うけど、別に俺は今の生活に不満なんてない。 寮での暮らしも慣れてきたし、部活はしんどい事も多いけど、走るのが好きだから苦ではない。 だから俺は何かが足りないとか、つまらないなんて、特に思わないんだけど。 それでもやっぱり、"恋愛"はしなければダメなんだろうか。
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