1-8:風の力

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 ゴオォォォォ!  ケイゴ先輩の炎を指差す。それに従い、すさまじい風は勢いよく炎をあおる。 「ギャアアアアアアアア!!」  耳をふさぎたくなるような、断末魔の叫びが聞こえる。  風にあおられたケイゴ先輩の炎は、悪霊たちの何倍もの大きさになり、その威力を増した。  炎の餌食となった悪霊たちは一瞬にして灰と化す。 「イッセイ!」 「わかってる!」  イッセイ先輩はひざまずき、地面に触れる。 「この場にさまよう魂たち全てを鎮め、地に帰せ!」  すると、塵になった悪霊たちがどんどん地面に吸い込まれていった。  吸い込まれたその場所は、少しの間だけ黒く染まったけれど、イッセイ先輩が浄化をして元どおりになっていく。  その様子を呆けながら眺めているうちに、足が地面についた感触がした。竜巻は、いつの間にか消えていた。 「リノ!」  膝から崩れ落ちそうになった私を、ケイゴ先輩が支えてくれる。 「大丈夫か?」 「はい……」  何とか自力で立とうと思うのに、足に力が入らない。足、というよりも、腰かも。いわゆる、腰が抜けましたという状態。 「もう、なにがなにやら……」  必死すぎて、たった今目の前で起こったことが現実とは思えない。  あんなにあちこち動き回ったはずなのに、私たちは第二体育館の舞台へと続く、入口の扉のところにいたのだ。  そして、第二体育館は何事もなかったかのように佇んでいる。もう黒い影のようなものはどこにも見当たらないし、空はすっかり晴れ上がっていた。 「お疲れ様、みんな」  振り返ると、千川先生が微笑んでいた。 「千川先生、外側には」 「問題ないよ。ここで起こったことは誰も気付いていない。それより、清水君を連れてきてくれてありがとう、神谷さん」 「いえ。彼のおかげで金原さんを救うことができました。さすがです、千川先生」  千川先生は見る者をうっとりさせるような微笑みを見せ、倒れているカリン先輩と清水先輩の元へ向かった。  二人はレン君が守っていたはずだ。 「レン君が守りに回ったんだね」 「兄ちゃんに言われたから」 「そうか、ありがとう」  二人は気を失っているだけだった。  千川先生は、カリン先輩の額の部分に手をかざす。すると、カリン先輩がフッと消えてしまった. 「カリン先輩っ!!」  驚いて叫んだ拍子に、バランスを崩す。 「おいっ」 「わぁっ」  倒れそうになる私を支え、ケイゴ先輩が大きな溜息をつく。その後、有無を言わせず私を抱き上げた。 「ケイゴ先輩っ!」 「おとなしくしとけ。危なっかしい」 「宮野君、今は特別に許可するけれど、今後はむやみやたらに莉乃に触らないように」 「……げ」 「ケイゴ、千川先生は姪バカなんだ。気をつけた方がいい。レンも釘を刺された」 「レンもかよっ!」  みんなのんきに笑っているけれど、カリン先輩が消えてしまったというのに、どうして!?  千川先生はよいしょ、と言って清水先輩をおぶる。 「莉乃、ここにいた金原さんは実体じゃない。彼女の身体は病院にあっただろう?」 「あ!」  そうだった。カリン先輩の身体は病院だった。  さっきまでここにあったのは、カリン先輩の精神……ううん、魂だ。カリン先輩の魂は悪霊たちから解放され、自分の身体へと戻ったのだ。 「これで、彼女は目を覚ますはずよ」  シズカ先輩の言葉に、私は大きくうなずく。 「よかったです」 「また、一緒にお見舞いに行きましょうね」 「はい!」
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