ずぶ濡れスーツの王子様

10/22
63人が本棚に入れています
本棚に追加
/462ページ
引っ越してきてから1週間。俺の回りは少し落ち着いてきていた。 そのタイミングで、俺を指名してくれたアイランド商会へ、支社の営業部長と一緒に、挨拶に行ったんだ。 アイランド商会は、ロンドンでは、結構有名な老舗の貿易会社だった。そこの仕事をさせてもらうんだから、心して掛からないとならない。 会ってくれたウィリアムさんは、営業部門を統括している役員のひとりだ。とても快活な明るい人柄で、話しやすい。 初めて会うというのに、何故だか、俺のことを高く買ってくれているようで、メインの大口の仕事以外にも、いくつか小口の仕事をもらえることになった。 支社に帰る途中のオープンカフェで、部長とふたり、一息着いていた。 「北詰君は、アイランドの人に、とても信頼されているね。」 「俺自身、驚いています。これは、俺の力じゃないですよ。 絶対、俺が商談していたジェームスとの間に入ってくださった香港のウォン氏のおかげです。かなり、俺のことを持ち上げて、プッシュしてくれたみたいなんで。」 「ひとつ聞いていいかな。」 「はい、答えられることなら。」 「君の社内プロフィールを見た限り、海外の仕事は、ほとんどないよね。なのに、どうやって、アイランドの仕事に関わったんだ?」 そう、俺は、海外の企業との取り引きは、ほとんどしていない。 どうしても、みんな派手なものに飛び付きたがるし、ひとつひとつの契約の額が、飛んでもなく高いから、海外の大手にアプローチを掛けようとする。 国内にだって、大きな企業はあるし、小さくても良い企業は多いのだから、そことの取り引きするのは、当たり前だ。そこをお座なりにして、海外企業とかありえない。 アイランドの件にしたって、国内の企業を大切にしてきたことの延長線上にあるのだから。
/462ページ

最初のコメントを投稿しよう!