ずぶ濡れスーツの王子様

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「あら、お出掛け?」 同じ階の奥さんに、玄関前の廊下であった。 「こんにちわ。この辺りで、この品物売ってるお店ありますか? まだ越してきて間がないので、この辺りの店、何も把握出来ていなくて。」 俺は、挨拶がてら、唯愛に託されたメモを見せて聞いてみた。 「あら、お使いなの?」 「ええ、妻に頼まれて。」 「あら、あなた優しいのね。…内の人に、あなたの爪の垢を煎じて飲まそうかしら。 さて、どれどれ。 ああ、これなら、表の通りを右に歩いていって、二つ先の交差点のところに、スーパーマーケットがあるから、そこで、揃えられるわよ。 これとこれは、そこにはないから、スーパーのある交差点から、もうひとつ先のアイリスってお店がいいわ。そのお店の目印は、アイリスの花にリボンが掛けられた可愛い看板よ。」 「教えていただいて、ありがとうございました。」 あの奥さんに、俺は、どう見えたかな。 言葉通り、優しい旦那さんならいいけど、もしかしたら、尻に敷かれてこき使われていると思われたかもな。 まあ、唯愛のお尻にドンと乗っかられているのなら、可愛いものだ。特に問題なしと。 俺は、教えてもらったスーパーを目指して、鼻歌混じりで、階段を軽やかに下りていったんだ。
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