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とりあえず
「……っ…う」
男は全身…特に腰背部に走る鈍い痛みに短く呻いた。
痛みにに段々と体が慣れてきて身動きが取れるようになってから、自身の置かれている状況を整理する。
どうなったのかはハッキリと思い出せないが、高いところから落ちた。
今いる地面に落ちる直前に何かに引っかかって落下スピードが軽減できたおかげで命に別状はない。が、腰と背中は強かに打ち付けた。
痛すぎて意識が飛んでいたくらいに。
気づいて、動けるようになってから確認したこの場所は真っ暗だった。
どれほどに暗いかというと、数メートル先に何があるのかですら分からないほどだ。
ここまで暗い空間は初めてだな、とまずはどんなところなのかを探ろうと手をゆっくりと前に伸ばすが何にも触れない。続いて引っ込めた腕を上に伸ばす。腕を伸ばし切ってもまだ上には余裕がありそうだ。
次いで横にゆっくりと腕を伸ばす。と、此処で何か壁らしきものに掌が触れた。感触を確かめるように撫でてみる。
「……土壁か?」
ざらついた感触が自分の知っている感覚の中のそれと合致する。
最後に自身が座り込んでいる地を撫でると、掌が触れた壁と同じ感触だった。
少しだけ指先に力を込めてその地面の土らしきものを掴んで自分の鼻先へと持っていき匂いを嗅いでみた。
うん、これは土だな、とその匂いで正式に判別する。
それから男は再度、土壁に手をつき、もう片方の手を頭上に掲げながらゆっくりと立ち上がった。まだ少し、いや大分腰が痛むが立てなくはない。
「だいぶ広いな」
そろそろと立ち上がった男は自分のいる空間の広さに少し驚きながら、壁についているのとは逆の腕をゆっくり周囲に振った。反対の壁には触れない。
地面と壁が土だから、何らかの洞窟にいるものだとは推測出来るが、暗すぎて他が分からなさすぎる。そして、ついていないことに明かりになり得るものを何一つ所持していないが為にこの視界の状況の打開策がない。
だからといってこのまま此処にいるわけにもいかないし、と男は指先を口に含ませて唾液で湿らせその指をまっすぐと前に立てた。
ほのかに前方から空気の流れを感じる。
出口、あるかな?と俄かに期待しながら男は腕をまっすぐと前に伸ばしながらゆっくりたら足を前に進ませた。
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