消灯

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ーーあぁ、消灯後の常夜灯のなんと煩わしかったことか。  すべての照明を落とし、一条の光さえも届かないその部屋で、私は床に横たわりながら浮世の眩しさを思い返す。  光とは波であり粒子である。それゆえ、真っ直ぐな光であっても、絶え間ないゆらぎのようなものが打ち寄せてくるように感じられる。  元来、人類は太陽の陽の光のもとに、繁栄をしてきた。しかし、いつしか我々は、その光を疎ましく思うようになっていた。 ーーなんとも気持ちのいい闇だ。  あたりを包む暗闇がじんわりと、そして、ひんやりと体に染み込むようだ。月のない夜とて、星の光があたりを照らす。自然界において、本当の闇夜などは作り出しでもしない限り、まず訪れることはない。 ーー贅沢な環境だ。  暗闇の支配する中で、私はゆっくりと目を細める。私が目を開けているのか、閉じているのか、自分でもわからない。目が光を取り込まない状態では、まぶたの筋肉の僅かな感覚だけで判断するしかない。いつしか、この状態に慣れたのであれば、深海魚のように、あるいは地底の生命体のように、可視光以外のものを、この目に取り込むようになるのだろうか。 ーーいいや。  私は自らの問いに苦笑した。この安寧を侵害されるような進化はゴメンだ。肉体的苦しみもなく煩わしさを感じることもない世界を手に入れたのだ。なにをまた外界との接点を作らねばならんのだ、と。もし、選択的に変異が可能なら、わたしは間違いなくそんな変異はお断りなのだから。  ふと気づくと、細めていた目はいつの間にか瞑っていた事に気づく。一体どれほどの時間をこうやって過ごしてきたのだろうか。私はなぜここにいるのだろうか。しかし、そんな事はもはやどうでもいい。  わたしは、わたしのユートピアを見つけたのだから、余計な光はいらないのだ。
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