第三章

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「商品としての価値はあるのか?」 リーレンは白にそう聞くと何件か目の送金エンターキーを押す。 「それを私に聞きますか?確認されたからそうやってエンター連打なさってると思っておりました。」 フンっとリーレンは、自分のパソコンに目を移す。 「婚約者の請求に答えてるだけだ。」 「記憶が無いようでしたが?」 嫌な事を言う白は温和な印象を周囲には与えるが紅よりSだとリーレンは思っている。 「記憶がなくても事実はかわらん。」 苛立つ主をこのままにしておくのは後の業務に差し支えると考えた白は「しかしよかったですね。あの男が手に入ったのですから。」 あの男とは鷹崎隼人の事であるのはリーレンも解っている。 何度も裁判で戦い何度も金で裏から表から追い詰めようともビクともしなかった胆力と頭脳。 「俺より頭の回転が速い奴だからな・・。」 リーレン自身も自分が他の人間よりはIQが高いという認識があり経験もあって日本の弁護士風情などなんとも思っていなかった。 しかし、鷹崎隼人は違った。 「あの男には日本は狭すぎる。丁度アメリカが手薄で彼の知識は法律だけでなかったのが良かったよ。」 「紅は、気に入らないようですけどね。」 「そうだろうね、頭がキレて武術まで習得している一般人なんて紅からすれば嫌味な男でしかないだろう。」 紅は、頭がキレても自分で自分の身を守れない奴がリーレンの側にいるのを嫌がった。 道場で手合わせをして叩きのめそうとしたが逆にやられたことが気に入らなかったようだ。 「紅は強いですが、彼はかわして相手の力を利用する技にたけてましたからね。幼い頃から何がしていたのでしょうね。」 付け焼刃ではないことは白が見ても一目瞭然だった。 「今は、嫌な関係だろうが、何年かしたら結構上手くいくんじゃないか?」 直情型の紅だが冷静で頭脳派の鷹崎は時間はかかるが上手くいくとリーレンは感じていた。 その通り数年後は仲が良くなり・・・いや紅が鷹崎に懐いたのは言うまでも無かった。 「明からの連絡ですね。」 教えていないはずのアドレスに明からのメッセージが入ってきた。 「さすが歩夢さんが育てただけありますね。ハッキングですか?」 「ああ、そのようだ。セキュリティー対策をしないといけないな。」 言葉とは、裏腹に楽しそうな声で婚約者からの連絡に答えるリーレンを微笑ましそうな顔で白はみていた。 長年時間をかけて総裁に上り詰めた過程をみてきた白はその原動力が婚約者に会う為だったと知っているからだ。 「大学の近くのカフェみたいだな。」 明日の午後の待ち合わせをまるでデートの約束をしたような顔をして喜ぶ主。 どうかこのままスムーズに行くようにと願う白だった。
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