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身体にぴり、と電流が走るような刺激に驚く間も無く、次に気づいた時には、上半身をベッドに倒されていた。
覆い被さるように近づく南雲さんは、視線が交わるとふにゃりと瞳を愛らしく細める。その子供のようなあどけなさの中で、やけに扇情的な手つきで脇腹の辺りを服の上から撫でつけながらまた唇に触れてくるから、確実に翻弄されて、着いていくのに精一杯だった。
「…榛世さんも。」
「……え?…っ、あ、」
軽やかなリップノイズが、静かな部屋の中ではどうしても耳に届く。
おでこや目元、頬など至る所に唇で触れて、とうとう服の裾からそっと入り込んだ片手に身体は既に大袈裟に反応しているのに、彼が急に口を開いた。
「奈良君と話してる時は、もっと砕けてる気がする。」
「……奈良、ですか?」
思いもよらない名前が出て尋ね返すと、頷く代わりにまた、キスが落ちる。啄むようなそれを受けつつ、必死で彼の発言の意図を考えようとするのはとても困難で、彼の肩をなんとか押して、その動きを止めた。
「…今日、ギャラリーで話してる時もそうだった。」
「……」
今日、と反芻しながら既に働きにくくなっている頭の中の記憶を手繰り寄せると
『15時からなんで、それまでに資料確認して内容把握した上で、戻ってください。よろしくお願いします』
『え、あと15分しか無いけど…!』
あの後輩が何処か面白がって私を呼びに来た時だと、そこでようやく繋がる。
「…あれは砕けてるとかじゃなくて、奈良がいっつも揶揄ってくるからで、怒ってただけで…っ」
「そうなんだ」といつも通り優しい声で返事をくれるのに、身体の輪郭をなぞる手の動きはもっと熱を帯びる。背中にあった手がそっと直接胸に触れた瞬間も、敏感に反応して声が漏れ出た。
彼の肩を押していた筈の手は、ただ添えてるだけになって何も機能していない。
「怒ってるところも可愛いから、心配になる。」
「…何を言ってるんですか…?」
「事実。」
即答して口角を綺麗に引き上げながら、すり、と鼻を触れ合わせてくる彼とちゃんと視線を合わせる。
南雲さんは盛大に勘違いしている。
奈良は私にそういう感情は当然、無い。
そう伝えると、眉を寄せつつも前髪を整えてくれた。
「…何で分かるの。」
「奈良は、なんというか、あの冷めた感じで、可愛い女の子に惚れて翻弄されるとかだと美味しいよなあと、ずっと思ってます。」
「…美味しいって何。」
「…職業病でしょうか。サチ先生に書いて欲しいなあ。」
勝手に後輩の恋愛を想像して悶えている私は、相当怪しいかもしれない。
私が告げ終えると、ふと空気を揺らした彼が「いつの間にか仕事の話になってる」と笑った。
「…俺は、榛世さんみたいに頑張り屋じゃないから。」
「そんなことは…」
「今日の打ち合わせでも、やっぱりどうしても榛世さんのこと気になってた。でも榛世さんはちゃんと集中して参加してたから、俺はちょっと反省しました。」
「……」
「ギャラリーの案件は、勿論頑張るから」と補って告げた彼が頬を撫でてくれるその仕草に胸が音を立てた。
この人の動作全てが、私の心の琴線に触れてしまう。
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