5

24/37
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
 「学校でのイジメ、続いてるの?」  けれど蓮君は、容赦なく訊く。真剣な顔で隙なく問いかけられて、私は嘘を吐く顔を作る暇もなかった。  「あ……」  頷くこともできず、視線を足元に落とし、目をキョロキョロさせていた。  もう、イジメは続いていると言っているようなものだ。黙る意味もない。  どうして黙っているかというと、さっき大丈夫だと嘘を吐いた後ろめたさから、そうせざるを得なかった。    「……続いてたんだ。言ってほしかった」  「……ごめんなさい。心配すると思って」  「やっぱり、俺、何もできない。……話を聞くことすらも」  「そんなことないって!」  「そんなこと、あるじゃん!」  お互いの、いつもより大きな声が、冷たくモノクロームな家中に響く。  「……蓮君」  「実際嘘吐かせてるし、今すぐ、紫音に嫌がらせするやつのところ行って、ヤメロって言うこともできないだろ」  「………」  「できることなら、走って、紫音の学校行って、その場でイジメやめさせたい。……けど、無理なんだ。堂々と道も歩けないやつに、何ができるんだ。それが、自分のせいだから、本当嫌になる」  こんなに瞳をギラつかせ、何かを訴える蓮君を初めて見た。  イジメの事を言わなかったのは、蓮君を嫌な気持ちにしたくなかったから。  私たちのいつまで続くかわからないこの生活を、穏やかで、楽しいものにしたかったから。  どうしてわかってくれないのだろう。  「私がこんなだから、ごめんなさい」  「そんなこと、言ってないよ」  「私だって、好きでイジメられてるんじゃないよ?今は大丈夫だから、大丈夫だって言った。できるだけ蓮君に嫌な思いさせないように、考えてたつもりだったんだけどっ」  「……そんなふうに考えられているのが、すでにやだ」  「…………」  自分の気持ちをどうやって纏めたらいいのか混乱している中で、色んな事、言わないでほしい。  目頭が熱くなっていく。涙が溢れそうなのを、一生懸命堪えた。  「ごめん……。俺本当何言ってんだろ」  「ううん。私もごめん。ちょっと頭冷やしてくる」  「ちょ、紫音! 体調良くないんじゃなかったの?」  背中に降ってくる蓮君の声に応えずに、私は走って家を出た。  蓮君は私のことを思って必死になってくれているのに、ありがとうじゃなくて、なんて馬鹿で自分勝手な返しをしてしまったのだろう。  今、これ以上一緒の場所にいたら、きっと傷付けることしか言えない。    
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!