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「学校でのイジメ、続いてるの?」
けれど蓮君は、容赦なく訊く。真剣な顔で隙なく問いかけられて、私は嘘を吐く顔を作る暇もなかった。
「あ……」
頷くこともできず、視線を足元に落とし、目をキョロキョロさせていた。
もう、イジメは続いていると言っているようなものだ。黙る意味もない。
どうして黙っているかというと、さっき大丈夫だと嘘を吐いた後ろめたさから、そうせざるを得なかった。
「……続いてたんだ。言ってほしかった」
「……ごめんなさい。心配すると思って」
「やっぱり、俺、何もできない。……話を聞くことすらも」
「そんなことないって!」
「そんなこと、あるじゃん!」
お互いの、いつもより大きな声が、冷たくモノクロームな家中に響く。
「……蓮君」
「実際嘘吐かせてるし、今すぐ、紫音に嫌がらせするやつのところ行って、ヤメロって言うこともできないだろ」
「………」
「できることなら、走って、紫音の学校行って、その場でイジメやめさせたい。……けど、無理なんだ。堂々と道も歩けないやつに、何ができるんだ。それが、自分のせいだから、本当嫌になる」
こんなに瞳をギラつかせ、何かを訴える蓮君を初めて見た。
イジメの事を言わなかったのは、蓮君を嫌な気持ちにしたくなかったから。
私たちのいつまで続くかわからないこの生活を、穏やかで、楽しいものにしたかったから。
どうしてわかってくれないのだろう。
「私がこんなだから、ごめんなさい」
「そんなこと、言ってないよ」
「私だって、好きでイジメられてるんじゃないよ?今は大丈夫だから、大丈夫だって言った。できるだけ蓮君に嫌な思いさせないように、考えてたつもりだったんだけどっ」
「……そんなふうに考えられているのが、すでにやだ」
「…………」
自分の気持ちをどうやって纏めたらいいのか混乱している中で、色んな事、言わないでほしい。
目頭が熱くなっていく。涙が溢れそうなのを、一生懸命堪えた。
「ごめん……。俺本当何言ってんだろ」
「ううん。私もごめん。ちょっと頭冷やしてくる」
「ちょ、紫音! 体調良くないんじゃなかったの?」
背中に降ってくる蓮君の声に応えずに、私は走って家を出た。
蓮君は私のことを思って必死になってくれているのに、ありがとうじゃなくて、なんて馬鹿で自分勝手な返しをしてしまったのだろう。
今、これ以上一緒の場所にいたら、きっと傷付けることしか言えない。
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