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 体力のない私は、しばらく走っていると息が切れてきたので、道の途中で立ち止まった。  高台から見える、色とりどりの連なった小さな家を眺めながら乱れた呼吸を整える。  大きく空気を吸いこむと、僅かな爽快感が胸の中に訪れて、すぐに消えて、無くなっていく。  家の中は肌寒かったのに、走ったせいか暑い。  学校の授業以外で走ったのなんて、何か月ぶりだろう。お母さんとおばあちゃんが亡くなって病院へ駆けつけた時以来だ。それくらい、私の日常の中で走る機会なんてなかったのだ。  とりあえず今は、自分の中にある激しく渦巻いた気持ちをどうにかして鎮めたかった。  たくさんの出来事が、容量の少ない頭の中に浮かんできて壊れてしまいそう。  学校でのイジメの場面。  鈴原さんがいなくなってしまった日の事。  私をストーカー扱いした男子から言われた言葉。その時見せられた意地悪とは別の表情。  気にかけてくれる、先生の優しい表情。    蓮君と出会ってから今日までの日々。  蓮君の笑った顔。  お母さんとおばあちゃんと過ごした、日常。  お父さんのすごく怒った顔と、悔しそうに泣いている顔。  最後に見えたのが、さっき、私と若干言い争った瞬間の、蓮君の顔。    急に、霧のような雨が降ってきて、世界を真っ白く染めていく。  雨が降ってきても同じ場所に突っ立っている私の横を、同年代くらいのカップルが通り過ぎていった。  小さな折り畳み傘に二人で入っているのだけど、二人ともが、お互いが濡れないように譲り合っていた。  蓮君の行動を思い返してみると、彼は出会って間もない頃から、私のことを一番に考えてくれていた。  私はどうだろう。  蓮君、蓮君って、自分の不幸の代償が蓮君だと信じ込んで、自分を楽にしようとしていたんじゃないのかな。  彼を匿って、助けてるって思いながら、結局は私が彼に縋っていた。  蓮君以外の人に対してもそうだ。  いつも私よりも幸せな人を羨んで、本心で関わろうともしなかったし、誰かの幸せを心から喜んだこともなかった。  自分は、恵まれない環境に生まれて、呪われた人生を送っている。  私なんかがって。  ずっとそんなふうに思って生きてきた。  霧雨が、私と世界を覆って全てを塗りつぶしていく。    私は、自分のことばかりだった。  人に受け入れてもらえないことに関して、相手のせいにばかりしていた自分に、今気がついたよ。      
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