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花の復讐計画
今日の為、九年ぶりにショートヘアにした。
断髪=失恋という、いつの時代と言いたくなる心理を未だに応用する職場の雲雀さんが煩かったけれど、彼と対峙するならショートは欠かせない。
気合いを入れたメイクに、髪もばっちりセットして、奮発したドレスに袖を通す。
唇にドレスと同じ色の紅を差したら、準備は完了――…。
ヒールを鳴らし、いざ出陣とドアを開いた。
彼との出会いは十年前、大学一年の時だった。
当時の私はこれと言った夢も目的もなく、ただ興味のあった専攻で只々必要分の単位を取るだけの日々を送っていた。
サークルや部活は、最初は興味があったけれど人見知りな私にはハードルが高いし、ぐいぐい来るあの感じが苦手だった。
幸いグループワークで知り合った何人かと意気投合して友達になったけれど、それ以上の交友関係は広がらなくて、他多数との関わりは必要最低限――…。
段々自分でも孤立しているのを感じ始めた頃、ちょっとしたドジを踏んだ。
簡単に言えば、レポートの書類不備。
ただ、そのミスは結構な人がやらかしていて、再提出の機会が設けられた。
季節的に学生は忙しくなる頃で、あちこちから悲鳴が響いていたけど、特に部活もサークルもやっていなかった私は早々に書類を揃えることが出来た。
ただ問題はその提出先――、先生の受け持つ研究室だった。
興味はあったけれど初期の見学で先輩達に気圧されて以来、近付くのも避けていた。
憂鬱な足取りで向かい、研究室前にある筈の箱に書類を入れたらすぐに帰るつもりだった。
けれど、いざ着いたら言われていた筈の箱が無かった。
早くそこから逃げたいのに、どうしたものかと辺りを彷徨った。
研究室には誰も居ないし、もう泣きたかった。
そうして、本当は二度と来たくなかったけれど、出直そうと決めて帰ろうとした時だった。
「ごめん!書類提出だよね⁉」
そんな物凄い大声が降って来て、肩を揺らした。
自分でも可笑しなくらい大きく振り返って、控えめに会釈した。
それが彼、瑞樹さんとの出会い。
当時の彼は大学院生だった。
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