1.お弁当を食べましょう!

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 満開の紫陽花に彩られた中庭で、運良く空いていたベンチに座る。  梅雨の晴れ間は、太陽の光がありがたいどころかむしろ暑いくらいだ。  ふう、あとはお弁当を食べてもらうだけでミッション終了。  そんなことを考えていると、彼女が言った。 【なんだか随分とスペースが空いていませんか?】  見れば、私と田中先輩の間には大人の男性一人が入れるほどのスペースがある。 【もうちょっと近づいてくれません?】 「え? いや、それはちょっと」  私がそう答えると、田中先輩はきょとんした顔をした。  慌てて私は説明をする。 「ああ、えっと、三原(みはら)先輩がですね、田中先輩にもっと近づきたいと言うのですよ」 「かまわないよ」  即答された。 【ですって! 近づいてくれません?】  三原先輩はうれしそうにそう聞いてくる。  えー。私は本当にただの無関係な人間なんですけどー。  代わりにお弁当を作ったんだから許してくださいよー。  そう反論をしようとすると。 【お願いします。ここで心残りがあると成仏できないかもしれませんよ?】 「わかりました」  私は三原先輩の言葉にあっさりと従い、それからもぞもぞと田中先輩に近づく。  それから田中先輩にバレないように、小さくため息。  これも、すべては、彼女の成仏のため。 「三原は、元気そう? あ、亡くなったのに元気そうって言うのも、変なんだけど」  田中先輩はそこまで言うとうつむいた。 【元気だよ、田中君! 私、生前は病弱で学校休みがちだったけど、幽霊になった途端にエネルギーわいてくるの!】  脳内にキンキンと響き渡る三原先輩の甲高い声。  そんなに元気なら、勝手に成仏してくれよ。 「元気そうですよ。今朝、私と一緒にお弁当もつくりましたし」 「へえ。じゃあ、驚いただろ。三原の料理、独創的だから」  田中先輩はそう言って笑うけれど。  物は言いようだな、と思った。
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