歌と鳥

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「歌と鳥」 🐤 真瀬浩平(まなせ・こうへい)って綺麗な人間だな、とおれは思っている。   昼休み。おれの教室に来てもらって、浩平と二人で昼飯を食べていた。浩平とはクラスが違うけど、昼休みはよく一緒に食べている。おれはほとんどいつも食堂でパンとかおにぎりを買っていて、浩平は家から弁当を持ってきている。 浩平は、箸で卵焼きを半分に切っていた。それからその一つをとって、そっと口に運ぶ。おれはそんな浩平の様子を盗み見ていた。浩平は一口一口、丁寧に食べるので、どことなく上品に見える。こいつの所作は、自然と育ちの良さがにじみ出ていて、おれはそれを見ているのが好きだったりする。でも、あまりにも見過ぎてしまっていたのか、浩平がおれの方をちらりと見た。 「牧村、どうした?」  二年ほどの友達付き合いだと言うのに、こいつは未だにおれのことを牧村(まきむら)、と名字で呼んでくる。 璃央(りお)って呼んでくれてもいいのにな。おれは、浩平って下の名前で呼んでるのに。なんかバランス悪くないか?と、内心もやもやとしてしまう。 でも、おれはそのもやもやを腹に納めた。 機嫌よく「今日も桔平先輩の弁当か?」と問いかけた。すると瞬間、浩平は熱が上がったように頬を真っ赤にして「う、うん」と答えた。ん? なんで? 浩平には、料理上手な兄がいる。 同じ高校に通う一学年年上の真瀬桔平(まなせ・きっぺい)先輩だ。おれも食堂に昼飯を買いに行くときにときどき会ったりする。なので、浩平の弁当はほとんどが兄作だ。いつものノリで聞いたのに、なんで今日はこんなに慌てたような反応なんだろう。
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