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遠慮がちに伸びた手が、柔らかに僕の両頬を包み込んだ。
人のものより大きな掌はひんやりとしていて、けれども触れる時間が長くなる程に芯にある温もりを伝えて来る。
そう、命は温かい。
かつて『そこに山があるから』と、登山する理由をシンプルに答えた人がいる。
高みを望み、踏破する意味は誰も到達しなかった場所を踏み締めた栄光しかない。でも未踏の頂きに手を伸ばしたのは、人が地球と言う大地を離れ、一つの生命として新たな大地を求めて旅する夢を満天の星の中にさえ求めたからではないか。
夢想でしかない考えが朧に浮かぶ。
生命宇宙起源説が正しいなら、地球に産まれた生命の遺伝子に遠い異星の記憶があり、命が生きられる星は無数にあるのだと刻まれていたのではないかと。
だから人は未踏破の場所に手を伸ばし、空の彼方に帰る場所があるのだと危険な山へと登り、果ては地球外の星を、系外惑星を求め果てしない旅をして来たのではないかと。
志半ばに倒れる可能性も高いと知りながら、冷たい眠りに横たわり、片道切符に終わる旅を未来に繋がる希望だと信じてやって来た僕達。
豊かな生態系を築き上げるこの惑星の大気が、地球と僅かに違う為に、僕の命は背負ったボンベの空気が無くなると共に潰えてしまうのだけれど。
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