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「さっき、半分しか食べなかったから。残ってたなって」
ワンピースの裾を握り締めながら、華夜子は恥ずかしさに耐える。
「でもよくよく考えてみたら、自分で口つけちゃってるやつだし。綺麗じゃないし。…第一、赤の他人が作ったものなんて、怪しくて食べるはずないのに。なんでいきなり、そんな事思いついちゃったんだろ。馬鹿みたい。…だからなんでもないって、言ったのに」
どうしてと、自分でも思う。
他の誰にもした事がないのに、どうしてさっきから彼に対してばかり。
たまたま垣間見てしまった、哀愁漂う彼の姿に、ほんの僅か心が動いてしまっているだけだー。
「すげー嬉しい」
華夜子の話を黙って聞いていた陸は、やがて満面の笑みを咲かせた。
「嘘だったら超へこむけど。…でももしも本当なら、すげー嬉しい」
喜びを抑える事なく表現してくる陸に、華夜子の顔はみるみる染まる。
「くれるなら喜んでもらうけど」
「…や。だからこれは私の食べかけで。だめだってば」
「俺、そういうの割と気にしないタイプ。勿論、誰のでもいいって訳じゃない」
陸に真っ直ぐ見つめられて、華夜子も惹かれ合うように、彼を見る。
「華夜子のなら全然平気。寧ろ喜んで食べる」
はっきり告げた後、陸は照れ臭そうに笑った。
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