The lunatic dawn

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ただ、そこに銃だけがあった。 他の物などなにもない。 優しさも、理性も、秩序も。 そして、さっきまであった、ただ唯一のもの……暴力も。 それだけで、彼女を繋ぎ止めていたものは、吹き飛んでいた。 だから彼女は、迷うことなく引き金を引いた。何度も、何度も。自身へ覆い被さる、二つの影へ向かって。 刹那、硝煙と、銃声と、血煙がその場を支配する。滝のごとく舞い落ちる血飛沫が、彼女の汚れた金髪を、まるで奴隷の着るようなぼろぼろの服を、しかし整った美しい顔を紅く、容赦なく染めていく。 悲鳴は聞こえない。いや、彼女の脳が、それを聞くことを拒んでいるのかもしれなかったが。 やがて訪れたのはーーーー静寂、血塗れの部屋、人型の肉塊。それは、ほんの数秒前まで、自分の両親という存在であったもの。 それを見て、彼女は、くっ、と笑った。壊れた人形のように醜悪に。悪魔のように歪んだ笑みで。
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