列車と真

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列車と真

~列車の真~  雨音の聞こえる列車内に、悲痛な声が響く。  「ちっ違います!私じゃないっ!」  …『礼子』。それが彼女の名前だ。  寝巻きであろう緩い服の彼女は両手を彼女とそっくりな娘、『濱菜』の上にのせ、強く握る。愛する娘と共にいることで、不安を必死にかきけそうとしているのである。  では、彼女はなぜに叫ぶのか…その理由を振り返ることとしよう。  と、いうのもこの列車、つい一時間ほど前に刺殺事件が判明した。真夜中の寝台列車の個室での事件…皆が寝静まる頃合いに事件が起こったとなってしまうと、連続殺人事件の幕開けだなどと乗客達が騒ぎだすののは容易に推測できる。混乱は新たな混乱を生み状況は悪化するだろう。  よってこの事件は一旦、着くまで時間がかかる次の駅に到着するまでは、重要参考人や車掌など、一部の人間を除いた大勢から隠されることが決まった。因みに事件において鍵となりそうな人々は皆個室を持っていて、アリバイもない。  そして一旦殺人の起こった部屋とは別の広い部屋で集まると、各々が状況を整理はじめた。  ――そして今、ようやく落ち着いてきた非番の新人警察が、礼子に対して疑いの目を向けているところである。  ちなみに彼は昼間、警察であることを不特定多数の前で自慢していたために、こうやって事件に携わっているらしく、犯人ではない。多分。  「…いきなり礼子さんを犯人扱いするのはどうかと思いますよ。警察でしょう?」  私がなだめる(煽る)ように言い聞かせると、新人警察は私にも疑いの目を向けてきた。  「誰だよあんた。」  頬が赤い。うわぁ…この人、酒も入ってるな…追い出してしまおうか。  私には、それが出来る。だって私は…………  「私は『真鶴 澪』。探偵です。そこに座ってる車掌さんに言われてこの事件を知ったわ。」  そう、私は夜中の廊下で騒動を知った、この事件を『解く』側の人間だ。  それを聞いた新人警察はすんなりと信じた。案外素直だ。  私は気を取り直し、ここにいる負の感情を持つ関係者に言い放つ。  「では、私が進行いたします。この事件を解決へと導きましょう。」  ――なるべく冷静に。  列車は暗いトンネルに突入した。雨は、聞こえなくなった。
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