第五章 ― 暴動 ―

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 ― 京都嵐山 ―  山頂付近の山小屋で身を潜める早苗は平地に点々と広がる炎の明かりを見つめ山本、斎藤の無事を祈る。  本物の総理と思われる男性の回復も想像以上に早く、簡単な身の回りの事は遅いなりにも一人でこなせるようになっていた。 「眠れないのかい?」 「えぇ、もう二時ですね」 「二人の事が心配だが、彼らならきっと戻って来てくれる筈だ。随分と世話になってるが、まだ下山出来る程の回復に至らず君には本当に申し訳なく思っている」  男はゆっくりと頭を下げた。  その仕草を目に、早苗はゆっくりと首を振る。 「余計な事は考えないでください。口に出来る山菜も彼らが置いてくれた食料も僅かですが、二人ならまだ何とかなりますから」  そう優しく微笑みを浮かべる早苗の頬は、明らかに痩せこけ始めていた。彼女は主食となる缶詰類の栄養の高いものはまだ病人である男へ提供し、自ら口にする食料は山菜をメインに口にしていた。 彼女は穏やかにほほ笑んでいるが、二人分の食料は既に残り二日ともたない。 「どうして嵐山に?」 「あぁ、観光ですよ……」 男は早苗の質問にそう答えたが、彼女が再び放つ言葉を耳に表情を一変させる。 「嘘はつかないで……、総理――」 「ハッ……」 山本と斎藤と交わした約束。それは彼の容態が回復するまで総理である事を気が付かないフリでいる事だった。しかし、日々減り行く食料を目に早苗は生命の危機を感じ始めていた。 「私は明日下山します。彼らと同じように食料を探しに行きます」 「ダメだ! 町は危険すぎる。彼らが旅立つ前に現状を耳にした。政府機関が機能していない町は暴徒化しているに違いない」 「そう、政府機関は機能していない。国を統括すべく総理、あなたがここにいるからじゃないんですか! 銃を手にするもう一人の総理、あの男は一体!? この国はどうなっているんですか!」  続く空腹と苛立ちを募らせた早苗は理性を失ったのか、実情の分からないまま涙を流しそう訴えかけるように叫ぶ。 「……」  長く続く沈黙――、総理は心の整理がついたのかゆっくりと顔をあげた。 「命を救われたあなたには、真実を話すべきかも知れない」  そして早苗の耳に衝撃の真実が語られた。
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