白い犬と黒い狼の魔法にかかったなら

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私の結婚相手の剛は10個上の45歳。全国のショッピングセンターなどに展開している人気アクセサリー店の社長だ。 「将来結婚する相手に自分のデザインした結婚指輪をしてもらうのが夢」 だそうで、剛のデザインした指輪が私たちの結婚指輪になるのだ。当日までの楽しみにしておきたい、とまだ見せてもらっていない。 そういうロマンチックなところも好きだ。 社長なのでもちろん金はある。結婚したら仕事を辞めろと言われているので、ずっと働いていたペットショップをこの前、寿退社したのだ。私は専業主婦となる。 ベッドに入りながら、昨日の真夜中の出来事を思い出す。ずっと頭の片隅に潜んでいた人が、昨日突然現れた。しかも、私の事をまだ好きだと言う。そんなん言われたら揺るがないわけがない。どうしたものか……もうすぐ結婚するというのに。 布団を頭まで被った時、剛からLINEが来て飛び起きる。 「今日、仕事が早く終わりそうだから、そっちでご飯食べてもいいか?」 剛がご飯を食べに来る。急いでスーパーに行かなきゃ!急いで支度をしながら返信をする。 「いいよ。何か食べたいものある?」 聞かなくても大体分かるけど、一応聞く。 「ハンバーグと肉じゃが」 いつもの合わない献立。大体これ。 「了解だよ。お仕事頑張って!」 私はすっぴんにマスクを付け、急いで玄関を開け出掛けた。 「お疲れさまー」 「あー、疲れた。お腹空いた」 剛がやって来た。玄関先でいつものお決まりのハグ。彼は背が高いので、私は胸と腹あたりの筋肉にいつも包み込まれてしまう。綺麗に割れている逞しい腹筋。ここだけじゃなく、彼の肉体美は凄いのだ。そこも彼の魅力の一つ。 抱き締め合った状態で、リビングまで行くというのがまたお決まりで。バッと離れるとブスッとする顔もまた可愛いくて仕方がない。普段はカッコよくスーツを着こなして、社長を頑張っているだろうが、ご飯を食べている時の幸せそうな顔は本当に可愛い。そのギャップにやられる。 「沙梨のハンバーグと肉じゃがは世界一!」 「大袈裟だなぁ」 「これからこれが、毎日食べれると思うと幸せだ」 「もう!毎日ハンバーグと肉じゃがは嫌だからね!」 「えーー?!いいだろ?」 こんなやり取りに幸せを感じるが、今日は胸の奥がチクリ、と痛む気がする。 昨日、優が突然現れるからだ。 ため息を吐きながら、キッチンで洗い物をしていると……剛が後ろから抱き締めてきた。後ろからのハグは違反行為と言ってもいいだろう。日本中の女性が、男性からされたらドキッとする行動 No.1と言っても過言ではない。現に今、私の心臓はバクバクで、お皿を落としそうになりながら洗い物をしている。 「まだ終わらない?」 「剛が居ると早く終わらないよ」 「でも離れてやらない」 はい、ゲームオーバー。私は食器をシンクに置き、蛇口の水を止めて、くるっと体を反転させた。剛が屈むように私の両肩を掴み、少し強引めに唇を寄せる。いつも、ブチュッとする様なキス。「好き」とは滅多に言わないが、その唇から愛がたっぷりと伝わってくる。何回かする内に後頭部を手で固定された私は、逃げられなくなり腕を首に回してしまう。 あー、今日もこの狼の罠にかかる。 そして、そのままソファーへ押し倒されて…… 〝毎日会いに来るから〟 優の昨日の言葉を思い出す。ハッ!しまった!最中に来てしまったら、さすがにヤバい。 「剛!今日女の子の日なの!ごめん!」 「なんだよ、早く言え」 切長の目が細くなりフニャリと笑うと、大きな手のひらが頭をなぞった。 ごめんね、剛、嘘ついちゃって。でも、大好きだからね。 玄関で手を振って、剛とさよならした。しばらくすると、窓ガラスを打つ音が耳に届いた。
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