プロローグ

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プロローグ

 辺りは血の臭いで充満していた。  死体があちこちに転がりこの世の地獄と言える場所で二人の少年が戦っていた。  黒髪を結び返り血に染まった甲冑に身を包み白い柄の美しい刀で戦う侍と長い赤髪赤眼で僧侶の姿をした鬼の少年であった。  「武藤流 二天一刀」   幾重にも放たれた斬擊が鬼に命中するが恐ろしいほど頑強な肉体には大したダメージを与えることはできなかった。  「こいつ不死身か?」  攻撃が全く効かない事に驚愕する侍。だが 攻撃は効いていないはずなのにとても苦しそうに苦悶の表情を浮かべる鬼。  「なんで苦しそうなんだ?」  鬼から深い悲しみを感じる侍。  「ガァァァ!!」  悲痛の叫びを上げながら襲いかかる。  「なんて悲しそうな顔をするんだよ」  侍は鬼の悲しみや苦しみそして孤独を感じ取りやりきれない気持ちになる。だが一瞬でも気を抜けば殺されるのは侍の方である。  「このままでは押し込まれる!」  防戦一方になった侍の目の前を炎の斬擊が くりだされた。  「七流抜刀術 神妙剣!!」  「グガァァァ」  炎の斬擊が鬼に直撃する。  侍の攻撃がビクともしなかった鬼がたった 一撃で倒されてしまう。  鬼の前を血染めの少女が立っていた。  黒髪に青白い着物、血みどろ手には炎のように赤く染まった刀が握られていた。そして少女を守るように神々しい炎が体を包みこんでいた。  その姿は恐ろしくも儚く美しかった。  少女は鬼にとどめをさそうと刀をかまえる。  「待ってくれ!!」  侍は少女に叫んだ。  「頼むそいつを殺さないでくれ!!」  「正気か? お前はこいつと今まで殺し合いをしていたのだぞ。ここは戦場でこいつは敵だ。こんな化け物などさっさと始末しておいた方がいい」  少女は呆れ顔で侍を見る。  「それでもそいつを殺さないでくれ」  「貴様は西軍の人間か?」  「東軍。黒田家の者だ」  「・・・一応は味方だな。ならばそこをどくのだ。敵は殲滅しなくてはならない」  侍は少女を見すえて刀を構える。  鬼を一撃で倒してしまう程の実力を持った者に勝てるはずがないのだがそれでも少女の前に立ちはだかる。  「なんの真似だ?」  「こいつは殺させない!!」  「私の前に立ちはだかるなら容赦はしないぞ。邪魔をする人間はもれなくぶち殺してきた」  放たれた殺気で大気が揺れ動いた。  侍は恐怖で足が震えるのを必死にこらえ何とか逃げ出すのを踏みとどまる。  「こいつも俺たちと同じ人間だ!!」  「そいつは化け物だよ。私と同じ・・・」    少女は悲しそうに呟く。  「人間だよ。泣いたり笑ったり悩んだりして精一杯に生きている大事な命だ」  「大事な命?」  「そして命には使い道がある。たった一つの命を無駄に失うなんて悲しいだろう」  「命の使い道だと・・・」  侍の言葉に動揺する。  「うるさい!邪魔をするならお前も斬る」  少女は侍に斬りかかるが迷いがあるのか先ほどのような圧倒的な攻撃力はなかった。  侍も鬼との戦闘で疲弊していたが何とか持ちこたえることができた。 「なぜ殺せない?」  なかなか倒せないことに戸惑う。  いつもであれば三回は切り刻んでいる相手である。  遠くにある西軍の陣から煙が上がった。  軍の大将がいる陣から煙が上がるということは戦の決着を意味していた。    「どうやらここまでのようだな」  少女は刀を鞘に収めるとにらみつけた。  「お前の名前は?」  「武藤禅宗。 君は?」  「私の名は美琴だ。変な奴だな禅宗」    美琴は少し微笑む。その表情は年頃の女の子であった。  「生きていたらまた会おう」  そのまま自軍へと帰っていった。  「あ~死ぬかと思った。全く勝てる気がしなかった。あれが噂の炎滅の巫女か。やっぱり神具使いはヤバすぎるな」  禅宗は鬼を抱えるとよろよろと歩き出す。  「こいつのせいで命令は果たせないし神具使いは殺されかけるし踏んだり蹴ったりだよ。 はぁ~如水様に怒られる?」     不測の出来事が起こったとはいえ主君の 命令を果たせなければ何かしらの責めは受けるであろう。  「何でこいつを助けてしまったんだろう」  考えるよりも先に体が動いてしまっていた。この事が正解かは禅宗にもわからなかったがそれでも心の奥底では何かがこの鬼を死なせるなと言っているような気がしていた。  「あ~重い」  禅宗は鬼を抱えたまま今だ血生臭い戦場を歩き自陣へと帰ってゆく。
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