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「なにやってんのよ、行っちゃうよ!」
階段を下りると、じたじたと足踏みをしながら莉子ちゃんが待っていた。
「珍しいね、莉子ちゃんママの方が遅いの」
莉子ちゃんママは、市内の別の小学校の先生をやっている。だから、いつも家を出るのは莉子ちゃんの方が遅いんだ。
「……昨日、帰ってから私すぐ寝ちゃったから、具合が悪いと思ったんだって。今朝起きて元気だって言ったら、そうならそうって言えってまた怒られた」
不機嫌そうに言った莉子ちゃんだけど、少しだけ、その口元が笑ってる。
「そっか。莉子ちゃんママ、莉子ちゃんのことが心配だったんだね」
「だったら、朝から怒らなくてもいいじゃない。ホント、うるさいったらありゃしない」
「莉子ちゃん」
「ん?」
「大好き」
振り向いた莉子ちゃんが、にこにこする私に向かって、べえ、と舌を出した。構わずに私は続ける。
「昨日、あのあとね、恵さん、先生に叱られてた。恵さんも、わかってくれたよ。さっちゃんと一緒に、今日謝るって」
「さっちゃん、悪くないじゃん」
「そうだけど……恵さん一人じゃ、謝りにくいんじゃない? そういうところ、莉子ちゃんと似てる」
げ、と莉子ちゃんが思いきり眉間にしわをよせた。
「颯太も心配してた」
「颯太が心配してたのは、私じゃなくて、美優のことじゃないの?」
「へ? なんで?」
「……なんでもない」
なぜか、はあ、とため息をつくと、ぷい、と莉子ちゃんは前を向いて歩き出した。
「美優、ありがとうね」
小さい声だったけど、莉子ちゃんがそんなこと言いだして、私は目を丸くする。
「どうしたの、急に」
「昨日、夢を見たの」
莉子ちゃんは、前を向いたまま続けた。
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