偽装懐妊

23/24
1613人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ
「冬哉さんっ……」 冬哉さんが好き。もう二度と、離れたくない。 彼は私の腕を手繰り寄せ、すがりつくように「凪紗、凪紗」と囁きながら抱き締めてくれた。 両親の前なのに、私たちは構わず愛を確かめる。私は見せつけていたのかもしれない。私たちは、誰にも引き裂けない。 お父さんにも、それをわかってほしかった。 「……そうか、わかった。なるほど。復讐を計画しながらも、凪紗のことは大切にしたかったと、そういうことなんだな。八雲くん」 「……はい。社長には顔向けできないほど、取り返しのつかないことをしました。なんとお詫びしたらいいかわかりません……でも、俺は、凪紗が好きです。それだけは、どうにもできそうにないんです……」 「……そうか」 頭を押さえて悩む父に、母は「あなた」と明るく声をかける。 私は願いを託して見つめ、そして父はうなずく。 「わかった。……八雲くん。凪紗。初めからやり直しなさい。これからは正直に、隠し事のないお付き合いをするといい」 「お父さん……!」
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!