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機体は徐々に高度を下げ、今はもう海面ギリギリを這う様に進んでいる。もう少しで車輪が海面に接触しそうだ……。先輩の声がテレビから聴こえる。
『……ぜ、絶対に……世界記録を。弟の浩二の為にも……、そして高倉さんがこの飛行を忘れない為にも……」
その言葉に私の頬を涙が流れていく。
「……お願い、神様……。先輩の夢を……叶えて」
その瞬間、先輩がもう一度、力を込めてペダルを漕ぎ始めた。機体が徐々に上昇していく。
『なんと、着水寸前だった機体が高度を取り戻しました。世界記録まであと一キロです』
テレビ画面に映るお台場の観客席から激しい歓声が上がっている。機体の目の前には伊豆大島の陸地が近づいていた。
『あと、百メートル、五十、二十、今、世界記録を更新しました! おめでとう、山本君、そして濵横サイエンス高校!』
そのアナウンスに私はベッドの上で泣き崩れた。これで私の手術が失敗しても、もう思い残すことは何も無い。ありがとう神様……。
ーーー
山本先輩の操縦する『HSP』は伊豆大島岡田港の駐車場に着陸した。飛行距離は百十八キロ。文句なしの世界記録の更新だった。
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