1/1
66人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ

 大股で飛び乗った高塀の上からの眺めは、思ったよりも良くなかった。 この塀の中から飛び出せば、事が好転するという希望もさしてなく、 だからといってここに留まるつもりもない。 可乃子は強い風にスカートを翻し、曇天に向かって高く飛ぶ。 えいやっと すたん 綺麗に着地を決めた視線の先には、さびれた商店街のアーケードが見えた。 走り抜け そう心が言っている。 もう捨ててしまえ。背負うな何もこれ以上。 そう、心が言っている。 その日、可乃子に影はない。影を作る日の光。ぬくむ陽光もなにもない。 なにもないのがいけないか。 そんなことはない。 そんなことはまったくないだろ。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!