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「ねぇ、覚えてる――?」 白い部屋の中、白いベッドに白いシーツ、服まで白いパジャマの私は、いかにも病院って感じの丸椅子に腰かけている男性に問いかけた。 「何を?」 少しかすれた声の返事。 へぇ~、この人、こんな声なんだ。 なんてこの状況には不似合いなことを思いつつ、 「私達って、結婚するはずだったらしいよ?」 まるで明日は晴れるらしいよ? みたいなイントネーションで、かなりヘビーな言葉を吐いた。 「……そうだね」 返ってきた彼の返答も至って普通。 驚かないんだ……。 そりゃそうか、知らなかったのは私だけか。 「ふ~ん。あなたはちゃんと覚えてるのね」 「あぁ……」 「でも、私は知らないわ」 「そうみたいだね」 「悪いけど、本当に覚えてないの」 「別に悪くないよ」 少し笑っているようにも見え、 「――ごめん、嘘ついた」 「ん?」 「覚えてないから、本当は悪いとも思ってない」 「君は正直者だね」 「だって、なんか取り繕ってるみたいで気持ち悪い」 「ふふふ、そうだね」 「なんで笑うの? 私、あなたに対してひどいことを言ってるのに」 「別にひどいなんて思ってないよ」 「……変な人」 「よく言われたよ」 「誰に?」 「もちろん、君に」 「覚えてない」 「だろうね」 「あなたの名前は?」 「……」さすがに黙り込んでしまった。 申し訳なく思い「ごめんなさい、名前を知らないから……、あなたの事をなんて呼べばいいかわからなくて……」 「そうか……」 「教えてもらえる?」 「もちろん。僕の名前は誠だよ。誠実の誠と書いて、まこと」 「……そうなんだ。いい名前ね。私好きだわ」 「ありがとう。君はいつもそう返事を返してくれるんだよ」 「どういう意味?」 「僕が君に名前を教えてあげるのは、今回が初めてじゃないってことさ」 「そうなんだ……」 「さぁ、少し眠った方がいいよ」 彼はそう言って私の布団を掛けなおしてくれた。
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