村の異変

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村の異変

「カイ、スコーン、焼けたよ。食べる?」 僕の目の前に山のような量のスコーンが置かれる。大学生とはいえこの量を 一人で食べるのは無理だよばあちゃん・・・。 「スコーン、食べる?」は最近のばあちゃんの口癖になっている。僕が来てくれ たことがよほどうれしいらしく毎日のようにスコーンを焼いてくれる。両親の すすめで大学の夏休みを利用して祖父母がいるイギリスの田舎町に来てから三 週間がたつ。ここに来て正解だった。日本と違い、日が長いから長時間活動で きるし、何より涼しくて過ごしやすい。毎年夏はこの村で過ごしたいくらいだ。 イギリス人の祖父母もすごく喜んでくれた。 「ありがとう。今日は一個か二個でいいよ。じゃあ、ちょっと出かけてくるか ら」 「気をつけるのよ」  ここに来て正解だった・・・正解だったのが一つだけ問題が。町に来てからと いうもの三キロも太ってしまった。毎日のようにスコーンやチップスを食べて いたらそれは太るに決まっている。そんなことで僕は散歩もかねて買い物に出 かけるようにしている。 庭に出ると、ばあちゃんが手塩にかけて育てているハーブが広がっている。 ローズマリー、ペパーミント、セイジなどが植えてあるイングリッシュガーデ ンだ。 「また、クモの巣ができてる。昨日もあったのに、今日もか。なんでだろ?。」 二、三日前からしょっちゅうクモの巣ができるようになった。クモの巣をい くらきれいにしてもきりがない。庭の掃除に使う魔女が使うようなほうきを持 ってきてクモの巣の掃除をした。 十分後、ようやくクモの巣の掃除が終わった。何個もあるクモの巣をかたづ ける作業はちょっとしたエクササイズになる。これでやっと出かけられる。 僕は歩いて30分かかる町に唯一あるスーパーマーケットに行く。スーパー と言っても八百屋に近い。 庭を出ると、芝生が広がっていて、牛が平和的にモーモーと鳴いている。レ ンガの家が並んでいてピーター・ラビットのような世界だ。最初に見た問いは 感動したが、今ではすっかり慣れてしまった。 目の前の家に住んでいるおじさんが僕に向かって手を振っている。 「おお、カイじゃないか!おまえまた太ったんじゃないか。」 この町は年配の方ばかりなので僕のことを本当の孫のようにかわいがってくれ る人は多い。母がイギリス人で父が日本人。黒い目に明るい茶髪の僕と普通に 接してくれた。それがどれだけ僕にとって嬉しかったことか。日本ではこの見 た目で嫌な思いをすることが多かった。高校では髪の毛を染めたと間違えられ たり、「チャラい。」と言われたこともある。 「冗談キツイですよ。これでも食事の量を減らしたり、筋トレしたり頑張ってるんですよ。」 「悪い、悪い、今から買い物か?」 「そうか、クモの巣に気をつけろよ。」 「え、クモの巣ですか?」 「そうだ。最近、町のあちこちにクモの巣が出来る。少し気持ち悪いくらいだ。夜中に大量のクモを見た奴もいるしな。」 「わかりました。気をつけます。」 「じゃあな。」 確かに町のあちこちにクモの巣が張ってある。どう考えてもこれは普通じゃない。
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