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「……た、確かめさせていただきますううう!」
吉里は叫びながら飛び起きた。
「―――あ、あれ?」
吹き抜けの大窓から朝陽が差し込んでいる。
回るモビール。
コーヒーの良い香りがする。
「ーーー!」
慌てて自分の姿を見下ろす。
グレーのインナー。青いラインが入った黒のボクサーパンツ。
シャツもズボンも脇に綺麗にたたまれていて、その上に眼鏡が置いてある。
「あ、起きました?」
後ろから声が聞こえ吉里は飛び上がりながら振り返った。
「すみません。驚かせましたか?」
「…………」
慌てて眼鏡を装着する。
そこには白いインナーとスーツのスラックス姿の牧村が、頭の水滴をタオルで拭いていた。
「―――ま、牧村さん……?」
「おはようございます」
牧村は言いながらカウンターに置いてあったカップの一つをソファの前のローテーブルに置いた。
「すみません、吉里さん、昨日ダイニングテーブルで眠ってしまったので。本当はベッドに運べればよかったんですけど、2階まではとても……。ソファで寝ていただきました」
「あ、いや、それは有り難いばかりなんですけど……。あの、牧村さんも、と、泊ってくれたんですか?」
言うと牧村は切れ長の目でこちらを見て、口元だけで笑った。
「吉里さんが一人じゃなかったら帰ったんですけど。万に一つの急性アルコール中毒もあり得るかと思いまして」
「す、すみません……」
ピーピーピー。
電子音がして牧村が電子レンジを開ける。
「―――いい匂い……」
吉里はタオルケットを避けて、ソファから足を下ろした。
「ホワイトクラウドっていうケーキ屋さん知ってます?ケーキはもちろん、ピザトーストも人気なんですよ」
言いながらそれを、テーブルの上にあった皿にトングで移してくれる。
「そのままでも十分美味しいですけど、こうして軽く焼き直した方が格段に旨い。どうぞ」
「――――」
コーヒーもちゃんと豆を挽いたらしく、部屋一面に豆の香ばしい香りが漂って。
「……い、いただきます」
厚めのピザトーストを口に頬張る。
パリッと小気味のいい音が響き、口いっぱいにトマトの酸味とチーズのまろやかさと、バジルの香味が広がる。
「……美味しい……」
普段のコンビニのパンと缶コーヒーを胃に流し込みながら運転している朝食とは大違いだ。
「でしょ?」
牧村は横に座ると、シャカシャカとタオルで髪の毛を拭いた。
「―――風呂入ったんですか?」
吉里が聞くと、牧村はふっと笑った。
「すみません。これから出社なもんで。シャワーだけ借りましたよ」
「…………」
気にしたことはなかったが、普段の牧村は短髪ながらきちんと髪をセットしているらしい。
洗いたての髪の毛が、こんなにボリュームがあってフワフワと柔らかそうだなんて、意外だった。
「吉里さん?」
牧村が眉を上げる。
「―――あ、いいですよ。いいに決まってるでしょ!俺の家でもないのに…!」
「はは。そう言っていただけると」
牧村は立ち上がると、タオルと傍らに置き、いつのまに準備したのかクリーニングからあがってきたばかりらしい、糊のきいたワイシャツに腕を通した。
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