プロローグ

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【どうか、あの人に逢えますように】  短冊に願い事を書いて、小さな笹の枝の奥の葉に隠れるように結びつけた。  今日は七月六日、明日は七夕だ。  この小さな笹は十歳離れた妹の()()が幼稚園から持ち帰ったものだ。各自願い事を書いた短冊を結びつけて、明日幼稚園に持参し、年長さんは幼稚園の裏手にある小川に流すことが恒例行事となっていたらしいが、現在は川に流さず近くの神社でお焚きあげをしてもらうらしい。  笹の葉には野の花の可愛らしい字で願い事が書かれた短冊が、これでもかと言うくらいビッシリと結びつけられている。 【お花になりたい】 【うさぎになりたい】 【お日様になりたい】など【蝶】や【蜜蜂】まである。  ……って、全部夢が叶ったら両親が号泣するよ。野の花がこの世界からいなくなってしまうんだから。  でも六歳児らしい、可愛い願い事だな。  幼稚園の笹の葉にコッソリ短冊を結びつける俺もどうかしてるが、この願いが叶うことを幼稚園児の野の花よりも願っていたんだ。
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