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逃げ遅れてしまった燈良はもはや焦りで立ち上がることもできない。
「…………ッ!」
そんなとき、ふと一体の怪物と目が合った。
その途端に怪物は両手両足を凄まじい速度で動かし、甲高い奇声を発しながら高速で迫る。
「…………ッ!」
逃げようとパニックになる燈良は、地面に転がる棒のような物に触れた。
ほとんど無意識の内にそれを掴むと、燈良に飛びかかってきた怪物に、その手に持った槍を突き刺す。
肉を突き破る感触が伝わってくる。
槍は怪物の腹を貫き、そのまま柄のところまで落ちてくると、燈良に覆いかぶさった。
「う、うあぁあああッ!!」
渾身の力を込めてそれを振り払うと、槍の刺さったままの怪物は地面を転がった。既に動きは止まっている。どうやら辛うじて迎え撃つことには成功したようだ。
燈良は後方へ走って行ってしまった友梨依を追いかけようと走り出す。
「友梨依さんッ!待っ……あっ……」
しかし彼の足は止まる。
前方を走る友梨依が、曲がり角を曲がろうとしたところで、反対側からやってきた異形のそれと遭遇してしまったのだ。
慌てて踵を返し、再びこちらへ逃げてくる友梨依だが、彼女は近くに転がっていた鎧に躓き、呆気なく転んでしまった。
涙目の彼女の表情が恐怖いっぱいに広がる。
「いやッ! いやああああッ!!」
怪物は容赦なく友梨依に飛びかかり、そのまま素手で腹を引き裂き、腸を引っ張り出す。友梨依は怪物の頭を掴み、足をばたつかせて必死に阻止しようとするが、到底力では勝てなかった。
ブチブチと何かが切れる音が聞こえる。
このおぞましい光景を前に、燈良は彼女を助けようという考えは一切浮かばなかった。次は自分だ。
「…………ッ!」
声も出ない中、彼は反対方向へ走ることだけはできた。
とにかく無我夢中で走り、まだ生き残った者が多くいる方へと逃げていく。
(沖川と美衣ちゃんはどこだ? 俺一人じゃあ、絶対死ぬ……!)
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