放火殺人

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放火殺人

10月18日、田舎臭いこの町はとても自然に囲まれており緑が生い茂る豊かな農村地区だった、自宅からは少し遠く離れた高校の授業が終わり、駐輪場へと足を運んだ孝也は、ロックしていた自転車の鍵を開け勢いよく台を蹴った、駐輪場辺りには蝉の鳴く音が鳴り響き続けるなか、自転車を取り出した孝也は蝉の鳴き声を掻き消すかの様に、ベルを鳴らし駐輪場から走り去った、「また明日な、孝也!」校門前で家に帰る途中の友人達の元を通過し軽く挨拶を交わした、「じゃあな」 その日の夜、孝也は学校から家に帰るまでに1時間は自転車を走らせている、その疲れがあるのか孝也は家に帰るとすぐにリビングのソファアで寝てしまった、寝ている間に陽は落ち、辺りは暗くなっている、孝也はふと目を覚ますと寝る前まではキッチンにいた母親の姿はおらず、更にいつもこの時間帯になるとソファーを占領してくる筈の兄の姿もいなかった、「珍しな今日は、兄貴が戻ってくる間にもう一回寝よ」夕飯は遅くなるが、いつもの騒がしい家の中とは違い今日は静かなため、孝也はもう二度寝しようとしたその時、外から騒がしい救急車のサイレンが聞こえてきた、この辺りは田舎町であり救急や消防が来るのは滅多にないと事だ、外で何かが起きている、そう感じた孝也は咄嗟に家を飛び出し救急車が向かった所へと追いかけた、「はぁ…はぁ…はぁ…」 孝也は駆け足で道を走った、すると山に隠れた奥の農村から強い光を放っているのが見えた、「あそこだ!」光を照らすその場所へと着くと孝也の足が止まった。 「逃げろー!火事だ!」孝也の目の前には、辺りの農村を焼き付くす炎の姿がそこにあり、逃げ惑う人々の姿が見えた、「斉木君、そこは危ないから早く逃げなさい!」近所に住む老人が唖然とする孝也に声をかけた、でかい家屋は全て炎に包まれ既に幾つかの木材が崩れ落ちている、孝也はこれまでに見ることのなかった景色に言葉を失った、「逃げるぞ、」すると孝也に呼び掛けていた老人が孝也の肩を叩き囁いた、咄嗟に見えた老人の目は悲しげな目をしていた、老人に促されるまま孝也はその場を去った、「火が森林に燃え移るぞ!」逃げ惑う人混みの中を押し潰されそうになりながらも孝也は無我夢中で走り続けた、それから一時間後には消防によって家屋や燃え移った森林は鎮火されたが、その影響によって農村は焼け野原と化した、孝也は山道から次々と登ってくる消防車や救急車、パトカーなどが辺りを立ち尽くす姿を只眺めていた、「体調は大丈夫か?」すると共に避難していた老人が水筒を差し出し優しく声をかけてきた、「さっきはありがとうございました」 孝也は気を遣い笑顔で応えた、「さっき警察が話してた、放火魔が捕まったらしい、全くこんな田舎町に物騒な事が起きるなんてな」老人の話を聞いていると、孝也の耳から何者かが遠くで叫ぶ声が聞こえてきた、しかし周りにいる警察や救急隊員達の反応がない、するとどんどんと叫び声がでかくなってきた、「助け…助け…」孝也は不安を感じ思わず耳を塞ぎ目を閉じた、「どうした?斉木君、顔色が悪いぞ?」辺りを見渡しても周りの反応を見る限りこの叫び声は自分にしか聞こえていない、更に叫び声は強くなった、「孝也ーー!」 ゆっくりと目を開けると、そこは薄暗い独居某の中に自分が立っていた、「 !」 孝也は思わず鉄の床へと尻をついた、「どうなってるんだ!」孝也の怒声は独居某の中に響き渡った、「孝也、起きたか」ふと後ろを振り向くと、ボロボロにほこびれた服を着て痩せ細った男が座っていた、「誰だ!お前?」 孝也は恐る恐る問いかけると男はゆっくりと顔を見上げた、男の目付きは絶望を見ているような目だった、「久しぶりだな、孝也、」 するとその瞬間孝也の脳裏から突如浮かび上がる人物が現れてきた、「正夫、」孝也はすぐに正夫の名前を呼びかけよとしたその時には、孝也は既に独居某から出ており、そして正夫の姿はどんどんと離れて行ってしまう、「兄貴ー!」。 「ハッ!?」目を覚ますとそこは薄暗いオフィスのデスクにいた、斉木の額には汗が大量に流れているのに気がつくと、「はぁ…」思わず斉木は頭を抱えオフィスチェアに体を倒した、「また、あの頃の記憶が現れた」両手で頭を抱えている斉木はじっと天井を見つめた。 平成13年8月10日、私は気づけば30代半ばに差し掛かった新聞記者になっていた、何故記者になったのか理由はもう覚えていないが、一つだけ心当たりはある、「プルルルル、プルルルル」すると突然デスクに置いてあった斉木の携帯から着信がなった、着信相手は母親からだった、めんどくさりながらも斉木はしぶしぶ通話に応答した、「こんな時間に何のよう?」 「今の仕事は順調かい?」母親の第一声は孝也の心配だった、その口調は懐かしく、子供の頃には鬱陶しかったその声は今となると幸せだったつくづく感じている、「俺の事は心配ないよ、それより母さんは元気か?」すると嬉しそうに電話ごしから返答がきた「私は孝也が元気でいるなら、心配要らないわよ」しばらくの間穏やかな時間が流れた、「そう言えば孝也、もうすぐお父さんの十三回忌だから又こっちに戻ってくるのよ」そう話すと斉木はデスクに置かれていたカレンダーを見た、「あぁ、また帰るよ」それから二分後話すと通話は切れた。
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