とあるアジトにて

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とあるアジトにて

『特撮ヒーロー物の世界に生まれたヒーローでも怪人でもないバケモノ』  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  自然あふれる森の洞窟の中に二人の男がいた。  洞窟の内部は自然とは真逆の様相だ。  艶消しのされた金属の壁、  点いていないがいくつもの電球が設置された天井、  汚れ埃のたまっているカーペットの敷き詰められた床、  破壊されあたりに破片の散らばっている電子機器。  自然とは似ても似つかない、人目を忍ぶことを目的にこんな場所に作られたのは明白だ。  そしてすでに破棄されていることも。 「ちっ、ここも外れか!」  ブルーが少しイラついた、焦りが見え隠れする様子で声を荒げる。  ヒーローとしてあまり褒められた態度ではないが、それも仕方のないことだろう。  ここ最近、組織のアジトの情報を得て「いざ、」と向かった場所が、ことごとくもぬけの殻だったのだ。  奴らの手のひらで踊らされてるようで気分が悪い。 「そう荒れるなブルー」  しかし、こうやってイラつかせることも作戦なのだと、イラつき考えなしに行動すれば罠にはまり自分がひいては仲間が危険にさらされる可能性がある、そう自分を戒めブルーもたしなめる。 「でもよぉ、ブラック。こうも続けてだと、これじゃ無駄骨折り過ぎて全身骨折しちまうぞ」 「何が全身骨折だ。それに無駄骨ってわけでもないだろうさ」  そうこれは無駄骨ではない。  確かに活動中のアジトを抑えられるならそれに越したことはないが、すでに破棄されていたとはいえしらみつぶしにするメリットはある。 「え? どういうことだよ」 「お前はほんとに、脳みそまで筋肉で出来ているのか? アジトを新しく作るのだってただじゃない、いかに組織が巨大とはいえそう何個もアジトを切り捨ててたら資金繰りにだって問題が出てくる」  実際、すべてのアジトを発見するのは不可能だ。  人手が足りなすぎる。  しかし、すでに破棄されていたとはいえアジトが発見されたとなれば、組織もそれなりに警戒心を抱くはずだ。  それで移転回数が増えるなら万々歳。  移転せずに稼働中のアジトを見つけられたら儲けものだ。  あまり楽しい仕事ではないが、労力のわりに成果のでかい活動なのだ。  実感はしにくいが、街で暴れてる怪人を倒すよりよっぽど与えるダメージはでかいと思っていい。  手を抜くわけにもいかない。  もちろん怪人が暴れだしたら被害者の救出が最優先、当然真っ先に出動するのだが。 「それは何となくわかるが、でも裏の権力者と繋がってるっていうしそれほんとに効果出るのか?」 「あのな、組織のアジトは最新技術の結晶だ。もちろん放棄の際に持ち出せるものは持ち出すだろうが、そう簡単にきれいにお引越しともいかない。それで足がついて移転先のアジトがばれたら、放棄の意味が全くないからな」  組織がいかに強大といえど金は無限ではない。  そして組織はそのつながりから強大な技術力を有するが、その技術を使うのにだって金はかかるのだ。  一から機械などを作り直したりはしないだろうが、精密機器を慎重になんてやってる余裕もないはずだ。 「な、なるほど」 「納得したか?」 「おう!!」  しかし、ブルーは今までこんなことも知らずにこの任務に励んでいたのか。  自分が何のために動いているかも理解してなかったとは、あきれてものも言えない。  おそらく説明はされているだろうが、小難しい話は興味ないと聞き流したのか。  そうなると、この威勢のいい返事も怪しいものだな。  ま、こいつは頭脳担当じゃないしな。  なにも理解しなのは困るが、適材適所という言葉もある。  実際こいつほど戦闘で頼れるやつもいないし、こいつはこれでいいのだろう。 「なら何かほかのアジトの手掛かりになりそうなものなどがないか探索しておいてくれ、俺は破壊されてるサーバーから何とかデータを引き出せないか試してみるから」 「了解だ!!」  さて、さっそく作業に取り掛かるか。  ブルーにはああいったし、俺も理解はしているんだが。  平和のためにも活動中のところをつぶせるのがいいのは事実だ。  データが残ってるとは思えないが、やはり可能性がある以上試さないわけにもいくまい。  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  結局収穫はゼロか。  まぁ、ハードを物理的に壊されている時点でデータの復旧なんて期待薄だし、予想通りでしかないのだが。 「おい、ブルー。そっちはどうだ?」 「特に何もなさそうだ。一応資料っぽい紙の束があったが」  そう言って彼は紙の束を差し出してくる。  断言はできないが、期待薄だろうな。  重要書類を紙のまま放置なんて、一般の企業でもしない。  一応、専門の方に回してはみるべきだろうがな。 「俺は専門でも何でもないから詳しくは何とも言えんが、まぁ期待薄だろうな」 「だよなぁ」  ブルーもこの紙がごみの可能性が低いことはわかっているらしい。  まぁ、ごみと自己判断で断定せずに持ってきたというのは、少しは理知的になったというべきだろうか。  昔なんてアジトに入った瞬間、証拠も何も知ったものかと無人の空間に必殺技ぶっぱなすなんてマネしていたからな。 「これ以上は時間の無駄だな。仕事はいくらでもある、帰宅して明日の英気を養うべきだな」 「おう! 今日はパーッと一杯行くか」  全く、こいつはいつもいつも。  しかし、たまの気分転換も悪くないだろう。 「はぁ、ヒーローとして……と言いたいところだが、今日は俺も飲みたい気分だ」 「いつもお堅いブラックが珍しい、じゃお気に入りのねぇちゃんに」  やっぱこいつはダメだな。  ヒーローとしての心構えがなっとらん。 「おい、酒は飲むが女はいらん」 「ま、久しぶりにブラックと飲めるし我慢するか」  ったく、調子のいい奴だ。  しかし、まぁかわいいやつでもある。  こういうところが俺と違って人望の厚い所以かね?  見習いたいとは思はないが、俺も少し参考にすべき部分もあるのだろう。  ヒーロー同士信頼関係は大事だからな。 「ん!?」  これは!!  気配? 「どうしたブラック?」  怪人か?  いや、それとは少し違うような。 「下に生き物の気配が……」 「生き物? もぐらとかじゃねぇか?」  もぐらか、この弱弱しい気配は確かに小動物の類に近い。  しかし、どこか引っかかる。 「モグラ、確かに小動物のような弱い気配だが……こ、これは違う!!」  いま、一瞬明らかに気配が変わった。  間違いない、怪人だ。  しかし、あまりにも弱弱しい。  これでは戦力に…… 「まさか怪人か!?」 「それに近い、しかしそれにしては弱弱しい。回収漏れのサンプルかもしれん!!」  まだ成体になっていない、もしくは失敗作やテストと考えれば納得もいく。  これはまたとない機会だ。 「なに!? それはかなり……」 「ああ、言うまでもなく重要だ。どうやら今日は飲みに行けそうにないな」  どうやら今日は当たりだったらしい。 「仕方ない、時間外労働にいそしむか」  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「こ、これは……」  どこにも隠し通路がないと思ったら、まさか完全に床で蓋してあったとは。  撤収を命じられた部下がこの場所の存在を知らず回収漏れしたのか、前責任者の伝え漏れで責任者すら知らなかったのか。  理由はわからないが、これはかなり幸運だ。  研究施設が丸々残っているなんて、これで組織への抵抗力が高まることは間違いない。  場合によっては俺たちヒーローの大幅な戦力アップ、不可能とされた怪人に改造された人間の治療方だって見つかるかもしれない。  そうすれば母さんも……  俺が研究設備に目を奪われていると、 「ブラック、これ……」  ブルーがとある紙の束を渡してきた。  そこには新人会の文字。 「新人会、だと……」 「ここ、かなり古いのかもしれん」  新人会、組織の前進となった新興宗教団体だ。  人類の進化を歌い、人間の遺伝子組み換えという禁忌に手を出した組織だ。  病気に強い人間、頭のいい人間、運動神経のいい人間。  意図的に才能を作り出せるそれは、ありとあらゆる金持ちがこぞって欲しがった。  新人会は力を持ち、そして野望を抱いた。  世界をおのがものにすると、世界は旧人類ではなく新人類が滑るべきだと。  その延長線上に生み出されたのが怪人であり、今の組織というわけだ。  そしてこの資料には、遺伝子組み換えから怪人の作成に至るまでのおぞましい実験の過程と試行錯誤の様子が記されていた。 「こ、これは……」  すさまじいとしか表しようがない。  言葉に出すどころか読むことさえためらわれる、そんな内容だ。  こいつらには心というものがないのか?  資料を読み進め、とあるページで目が留まる。  クローン、人を材料としない方向への研究だった。  詳しい記述はなく、ただ永久凍結の赤印が押されている。  ここの一文、我々は超えてはいけない一線を越えたのかもしれない。  人権など知ったことか、神などいる者か、そんな非人道的な実験を繰り返した彼らが何を見たのか。  そしてすでに凍結されたそれは、いったいナニを生み出そうとしていたのか。  いや、もしかしたらすでに…… 「少し、嫌な予感がする」  ちょっと待て、俺はなぜここに降りてきた?  そしてなぜここは放棄のさい回収されなかった?  なぜ出入り口をふさぐときに、ここをつぶさなかった?  まさか……  なぜブルーはここに降りてすぐにこの資料に目をつけた?  適材適所、こいつは戦闘担当で……  お前、こんな資料読み解けたっけ?  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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