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1話 都攻め
「鬼は〜内、福は〜内…[悪魔]〜外!」
「鬼は〜内!福は〜内!悪魔〜外!」
これは、昭和の太平洋戦争前のお話。
ここは都会から果てしなく離れている山奥内にある、とある村の大きな家の中。
15歳前後と思われる普通の人間よりは背丈が大きい子供達……現代日本でいう小学生の中くらいな年齢らしき子供達が扉に向かって、節分でまく豆を楽しそうにまいていた。
ただ違和感があるのは、なぜ[鬼は外]ではなく[鬼は内]で[悪魔外!]と言う聞き慣れない言葉が飛び出しているのか。
「これこれお前たち、豆をまくのはよいがあとで拾って食うんじゃからあまり地面まで飛ばすでないよ?」
子供達の後ろから、目が開かないのかずっと目を閉じたまま正面を向いて話す、2m超えの背丈をした大柄な婆様……沙羅がいた。
「はぁい大婆(おおばば)様!でもいつも思ってたんだけど、豆まきする時にどうして鬼は内って言葉があるの〜?それに悪魔ってなに〜?」
末っ子と思われる少女がこの村ではただ1人だけ残っているらしい大婆様へと、素朴な質問を投げつけている。
「そうだよね?僕もずっと気になってたんだ!特になんで[豆]を投げるようになったの?」
末っ子の少女と同年代と思われる少年も、口をはさんできた。
「ほっほっ!そうさなぁ…もしここにいるみんなが昔話を聞いても怖くないと言うのであれば話してやろうかのぉ〜」
「大婆様、俺達も長い間その事が気になっていたんだ。
なんで豆を投げる必要があったのか、それにどうして俺達の親が都に出てから一度も帰ってこないままなのか教えてくれ!……どんだけ怖くても俺達は聞くよ。」
長男と思わしき青年が彼らを代表して聞いてくる雰囲気を[感じた]大婆様は、複雑そうな顔をしながらもその気持ちに応えようと無言で部屋の奥にあるふすまのそばまで下がり、ゆっくりとその腰を下ろし始める。
その様子を見た子供達は慌てて土足以外にばらまいていた節分の豆をせっせと器に入れ直し、彼女のそばへと近づき行儀よく座っていく。
彼らは雪のように真っ白な瞳……人の世では[幸運を呼ぶ白き瞳]と呼ばれているそれを彼女へと向け、今か今かと耳を傾けている。
「ふふ、子供の好奇心は全く怖いもの知らずじゃな。だがそれもよかろうて…遅かれ早かれ知らねばならない事じゃしの?」
どこか悲しくもあり怒りを静かに燃やしているかのような声を滲ませながら、大婆様は子供達に話しかけていく。
これから語られるは彼女が幼い頃から見てきた事、そして自身が体験した恐ろしさと悲しい気持ちを味わった人の世によって隠されし物語。
大婆様と呼ばれるまでに至る生い立ちを経験してきた彼女の話をこれから聞こうとする子供達は、真実を聞いて何を感じるのであろうか。
時は江戸から明治にかける時代までさかのぼる。鬼の大群が今世を生きている人間達を根絶やしにせんとばかりに、全国規模で殺戮行動を起こしていた時があった。
「人は滅ぼす…人よ、滅べ!」
「ぎゃあ‼︎」
「鬼だ!鬼が攻めてきたぞ〜‼︎」
「くそっ!桃太郎はどこに行った⁉︎」
「鬼退治はあいつの得意分野だろ!なんでさっさと来てくれな……ぐぎゃあ〜〜‼︎」
現在東にある都では、100人程の鬼達が地上の人間達を根絶やしにせんと歩き回る。平均身長が約3mもある彼らは、自身の背丈半分くらいの金棒を担いでふり回していく。
そして手ぶらな鬼達は近くにある大きめの木を両手で抱きかかえた状態で歩き、民家ごと人間を叩き潰すというおぞましい光景がこの都以外の地域でも同時に行われていたのであった!
「ええ〜い!桃太郎どもはなぜこないのじゃ‼︎」
「申し上げます!桃太郎一行は鬼ヶ島から捕らえてきたという鬼の子を担いで、我らを盾にする形で西の地へと逃げていきました。
それどころか私どもの財産である金も盗まれております!殿よ、ここも間もなく攻め落とされる事かと……」
「お、おのれぇ!あの[火事場どろぼう共]めがぁ〜‼︎……ひっ!ぐぎゃあーー⁉︎」
京の都にて我がもの顔で権力を振り回していた殿様は、全長五メートルもある大柄な鬼が振り回す棍棒によって、家来ともども哀れな肉片となった。
桃太郎一行が逃げたのは一体どこなのだろうか?そして鬼の子供をさらった目的とは?
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