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 この国には「闇」がある。それを手にすると、なんでも願いが叶うのだという、不思議な力が。誰も見たことも触れたこともない。  しかし、それは確かに存在するのだ。  狭く複雑な路地を行き、信じて進んだ先に、その店はあった。小さな平屋の建物だ。空色の扉と窓があり、扉の脇にオレンジ色の光を灯すランプが付けられていた。  扉を開けると、「リン」と鈴の音がした。 「いらっしゃい。捜し物?」  室内には、扉の正面にあたる場所に棚と丸テーブルに椅子2脚が置かれていた。テーブルの上には、印象的な水晶板。銅の縁飾りがされていて、窓からの明かりを受けて、所々輝いていた。  そのテーブルから迎えてくれたのは、一人の少年だった。  綺麗に切り揃えられた黒い短い髪に黒い瞳の、冷たく美しい、不思議な雰囲気を持つ少年だ。 「……あ、はい」  扉横の窓からの明かりの他に、床に差し込む色とりどりの光は、天井に備え付けられた天窓の色ガラスの光だった。  床で揺れる鮮やかな光を眺めながら、客は、おずおずと空いている椅子に座った。 「あの、表の通りで、(かえで)さんという方にここを紹介していただいて……」  水晶板の向こうで、少年は、僅かに目を見開いた。 「……そう。楓に」
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