第壱話 曇天、廃社、出会い

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第壱話 曇天、廃社、出会い

窓からけたたましく雨音が入ってくるある日の朝、ユウは1人せっせと旅立ちの準備をする。風呂敷の中に数日分の着替えと昨日作っておいた握り飯を入れ、それが完了するときゅっと口を閉めて肩に背負う。 今日は彼女にとってこの上なく重要な日なのだ。 長年追い求めてきた大切な人に再び巡り会うことが出来るかもしれない手掛かりがようやく見つかり、その真偽を見定めるために今まで暮らしてきた我が家を離れ、遠く離れた町まで旅立つ。 旅立ちの用意がようやく全て終わると、ユウは、まるでこれから大きな戦いに向かうかの様な強い歩調で家の出口へ向かう。 しかし、玄関の戸を開けるとさっきまでの勇ましい威勢は影を潜め、どこか哀愁漂う表情をしながら、雨空を見上げた。 「あの日も確か、こんな雨の日だったなぁ。」 ユウは静かにそう呟きながら、あの日のことを頭に思い浮かべた。 大切な人との出会いと別れを一度に味わったあの日のことを。
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