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後宮は、皇家の男子にあてられる妻たちの寝所である。
寝所といっても、妻一人ひとりに貴族の邸宅のような家を授ける場合もあれば、幾人の妻たちと起居を共にする大部屋の場合もあり、寵愛する夫の位で変わる。
男子禁制で、給仕から世話人まで全てが男子以外のこのハレムにおいて、妻たちは、ただひとりの男性に愛され、跡継ぎを産めるように互いに競うのである。
「ねえアイラ。昨夜はどうだった?」
大広間に居た寝起きの私にそう尋ねてきたのは栗色の髪に薄く赤みがかった肌をもつディーナである。
「いつもの通り、優しくされた......」
未だに身体のあちこちに彼のお方の色香が残っているように感じられる。
「いいなぁ! 私は3日後よ! 待ちきれない~」
「そうね、今日はバハーレフで、明日はアーズィンの番だものね」
そんな話をしていると、バハーレフが広間の真ん中に居た私たちの輪に入ってきた。
「ナニナニ? 殿下のお話?」
褐色の肌に金色の目を輝かせたバハーレフが、絨毯に寝そべる私たちに合わせて座り込んだ。
「ええ、そうよ! あなた今晩でしょう? 羨ましいわ」
「殿下は私の時は激しいから、明日は動けなくなるかも」
バハーレフは自慢げに言った。
「ああ! 私の時だってとっても、とっても激しいもん!」
「ディーナ、激しければ良いわけではないでしょう?」
そう言って私が嗜めると、ディーナとバハーレフは、こちらをジトっとした目で見てきた。
「アイラは一番愛されているもの! 私たちなんてここに来てまだ1年だから、心配だわ」
ディーナは抱き枕をポンとひと叩きした。
「ファルシール殿下は他の皇子たちと違ってハレムの妻たちには等しく接して下さるけど、アイラだけは別格ね。妬いちゃうわ」
バハーレフは手を頬に当てると
目を伏せた。
ファルシール=フサイ=シヴァール=イル=シャープール=シャリム。彼のお方の御名である。大陸行路の中心地、農耕と交易で栄える砂漠と草原の国、シャリム皇国の第六皇子にして、このハレムの主。若冠16歳の少年である。
「私はこのハレムに入る前から殿下と面識があっただけ」
そう、殿下が幼い時に何度か会った。それだけ。
「でも、アイラが一番最初にこのハレムに召し上がられたのよね? あの引きこもりの殿下がそうしたってこと、今までに聞いたこと無いわよ?」
バハーレフが言う。
「そうかもしれないわね」
私がそういうと、二人はやれやれという風に肩を竦めてみせた。
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