第1夜 皇太子妃さまの懐妊騒動

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第1夜 皇太子妃さまの懐妊騒動

   1  「アイラーシュ……」  彼のお方は、いつも私をそう呼ぶ。  ひんやりと乾いた夜風が(とばり)の隙間から流れ込んできた。  寝台に敷かれたいくつかの枕が、私を優しく押さえつける彼のお方の重さで沈み込む。  彼のお方はゆっくりと首筋に口づけをして、そのまま鎖骨へ、胸へ、お腹へ──。  「ん……っ」  私がそう吐息を洩らすと、彼のお方は、上目遣いに私を見つめ、目を細めて微笑むのである。  月下に透き通るような長い蒼銀の髪を無造作に垂らし、底知れない碧緑の瞳に、あどけなさのある色白で秀麗な顔立ちの少年は、次第に私の脚に手を這わせて、上へ上へとゆっくり擦り上げてきた。  彼のお方は、素肌と外気を隔てるたった一枚の絹の寝衣の隙間に手を差し込み、私の恥部の前で手を止めた。私は、言い知れないもどかしさに彼のお方を呼んだ。  「殿下......」  彼のお方は、少し眉をひそめると、拗ねたように言う。  「二人の時はファルと呼べと何度言った?」  彼のお方は脚に触れていた手を抜くと、私の頭に手を回して、軽く撫でた。  「ファルシール殿下......」  「ファル」  彼のお方は、私が言うのを憚っている呼び方を強要してくる。  鼻の先と先が触れ合うギリギリの場所で、彼のお方は私の返事を待っていた。  「......ファル──っ」  彼のお方は私が言った瞬間に唇で私の口をふさいだ。柔らかな感触を感じていると、舌がスルリと挿し込まれ、私の口腔を撫でた。私は抵抗せず彼のお方に委ねた。  「......!」  彼のお方の手が、いつの間にか私の脚の間に差し込まれていた。  彼のお方は少し驚いた私を綾すようにゆっくりと私の舌を絡めては回した。  薄手の夜衣の上から私の恥部の形をなぞるように這わせては、徐々にそこへと指を挿しこんでくる。  じんわりと頭の奥で熱いものが全身に拡がるのを感じ始めると、彼のお方はさらに執拗に、しかし優しく口内を撫でた。  「ぷぁ......はぁはぁ」  彼のお方はようやく私をじんわりとした口付けの快感から遠ざけてくれた。  「余の愛しいアイラーシュ......」  彼のお方は、私の夜衣を留めていた紐を静かにほどいた。  彼のお方との夜は、こうして始まる。 ────────── ──────── ────── ────
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