噛みしめる幸せ

1/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 「あなた、しばらくお天気は雪が続きそうなんだしそろそろ休んだら?」  書類と睨めっこをしている私に妻からの言葉。それに私は背を向けたまま「そうだね、キリがいいとこまで仕上がったら休むから先に休んでいてくれ」と答えた。 私の返答に少しの不満があったのか言いよどみつつも妻は寝床に入り、プラグを差し込み「お先におやすみなさい」と言って機能を停止しスリープモードへと移行した。  窓を叩く雪は強風で威力を増し、ガタガタと部屋に響く。 降り積もった雪はあちらこちらで真っ白な山を作っていてきっとこんな日は手足が悴むくらいシンシンと冷えているんだろうな、と思いながら内蔵ヒーターをoffにする。 うん、きっと寒い──。 ……こんな日は無性に温かいかけそばが食べたくなる。ネギと申し訳程度の天かすが散った何の変哲もない地味なかけそばだったがそれが良い。 チラリと眠入った妻に目を向けた。  …… "おやすみなさい"……か──。  結婚して幾年もの月日を共にしたが、私は一度も妻の手料理を食べたことがない。否、料理という概念すらないのだから"食べる"という行いすらない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!