狐の嫁入り

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「え、それやばい女じゃん。ただ勧誘できそうだから優しくしてるだけだって」 大学の友人に彼女の話をすると、友人はすぐに顔を顰めた。 「しかもさ、洗脳されてるわけでもないのに興味あるフリしてその女に近づこうとしてるお前もやばいよ。そんなの絶対上手くいかないぞ」 友人の言うことはもっともだったし、それはよく理解できる。けれども僕にも言い分があった。 「彼女は、今は洗脳されてるのかもしれないけど……スタッフ業務までやってるし。でも、僕が彼女をそこから救い出せたらと思って。これからもっと仲良くなって、ゆくゆくはお付き合い、したりして……。僕といることで自然に宗教以外のことにもたくさん興味を持ってくれるかもしれないし。それに」 「お前さあ」 友人は僕の言葉を遮り、聞いたことのない真剣なトーンで言った。 「そんな簡単に宗教抜けれたら苦労しないんだよ。しかも、お前と付き合ったら気持ちが変わって宗教辞められるかもとか、ちょっと簡単に考えすぎ。いいか、その女は何か宗教に縋らなければいけない理由があったから、今洗脳されてるわけ。そういう女は闇が深いって決まってるんだよ。本当に、やめておけよ」  その通りだと僕は思った。友人が僕を本気で心配してくれていることも伝わった。だがもう関わらない方が良いのかな、と思うのと同時に彼女の姿が脳裏に浮かんで来る。その姿を想う度に僕は、やっぱり一度くらいは二人きりで会いたいと願ってしまうのだった。友人はその後も何か言っていたが、彼女の可愛らしい姿の前では、それはどこか遠くで聞こえる一つの音でしかなかった。
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