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どうやら佳純は、由紀の性質をうっかり忘れる程度には動揺していたらしい。自分を落ち着けるように、テーブルの上のオレンジジュースを一気飲みしている。
「でね、その人ホントにカッコよくて。名刺に書いてある住所まで、お礼言いに行こうと思ってるんだ〜」
「――ブフッ」
絶妙なタイミングである。佳純の口にジュースがまだ残っているときに、由紀の爆弾発言がかまされた。哀れにも口内のジュースは噴き出され、テーブルに橙色の水たまりを作る。
「へっ? なんか面白いこと言った?」
「ゲホッ……面白いじゃなくておかしい、でしょ! いくら助けてくれたとはいえ知らない人なんでしょ⁉︎ しかもその怪しい名刺! 普通行く? 普通行かないよね⁉︎」
「落ち着いて、落ち着いて佳純! とりあえず机拭くから!」
「由紀の方が冷静みたいになってんのがなんかムカつくんだけど!」
「そう言われても!」
由紀は何の悪気もなく放った言葉だったが――だからこそ尚更タチが悪いとも言えるが――佳純には相当混乱を与えたらしく、平静を失い早口で捲し立てている。
布巾片手にどうにか佳純をなだめた由紀は、佳純が混乱した理由をおずおずと尋ねる。
「えっと……私、なんか悪いこと言った?」
「いや、ね? もらった名刺よ。どう考えても怪しいでしょ? 龍なんとか協会って。怪しいでしょ?」
「ま、まあ……変わった所だなとは思ったよ」
「うん。知らない人に怪しい名刺をもらったらね、まず警察に届けに行かなきゃいけないんだよ」
「でも、知らない人は知らない人でも私のこと助けてくれたし、いい知らない人だよ」
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