賞味期限

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 寂れたワンルームの中で、ダンボールの山が蠢いている。そのいびつな生き物たちに囲まれて、ガラスの皿たちを新聞紙に包んでいく。 「なんかもう勃たねんだよね」  耳の奥からせり上がる彼の声。 「賞味期限切れだよ、君」  こないだまで、あんなに私に夢中だったくせに。  所詮は金での愛人「契約」  生きるためだけに。  私は彼を求めた。  愛するためだけに  彼は私を求めた。  逆転しちゃったのは、いつからだったっけ。  ふと、皿の山の中。小さなビンがあらわれた。  ああ。私に夢中だった彼がまだなんでも買ってくれた頃。彼をもっと知りたくて。新宿の人混みでバッグからかすめとった、彼の飲みかけのラム酒だった。  今。掴んで眺めてみる。  嗤える。嗤うと頰や眼尻の皺が、カサカサ肌の上で音を立てる。  どんなにラベルを睨んでも見つからない。  ああ〜。そうだね、そうだね。  こいつらには賞味期限がないんだった。  手元の新聞紙を破ると銀色のコップが顔を出した。ビンを開ける。注ぐ。仰ぐ。どんなに時が経っても腐らなかった液体を、きっと溶けているだろう彼の唾液とともに。骨まで染みこませるように飲み干した。            
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