海の魔物(壱)

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 栗郷に手伝って欲しいと頼まれる真尋はどうしようかなと迷っていた。  今日は折角花田と三村と遊びに来たのに、この調子では一緒に帰れない。  それはそれで寂しいものであるので、断りたい気持ちもあるが、あのプライドの高い栗郷が直々に頼んでくるので嫌とは言えない。  そんな中栗郷は何か気配を感じ、ぱっとそちらを見るが何も無い。 「栗郷さん……?」 「いや、気のせいか………」  一瞬だけ何か気配がしたと思ったが、彼と共に来た天明道の二人がこちらへやって来るのを見て、彼らと勘違いしたのかと思った。   「栗郷さん、そろそろ………」  いつまで話しているんだと言った表情の40代くらいの男性と苦い顔を浮かべた30代くらいの女性。  栗郷はサーセンと軽く謝ると、ちらりと真尋を一瞥して、彼に協力してもらう事を提案した。  すると男性が真尋を凝視してきて、思わず体が竦む。 「彼は?」 「大学の後輩ッス」 「妖の混じりもんが大学に?」  まるでそんな所に妖の混血が通って何になると言ったように鼻で笑った。  流石にそれ程親しいとは言えない関係ながらも、栗郷は後輩を馬鹿にされたような態度を取られて気分は良くないと、男性を睨み付けた。  そんな様子をもう一人天明道のポニーテールの女性が気まずそうに見ていて、このままでは任務に支障をきたすのではと真尋も栗郷の名前を呼び、落ち着かせる。 「まぁいい。 栗郷、お前がどうしようがお前の勝手だ。 こっちはこっちでやる。 精々名門一族らしく、頑張るんだな」 「ちょっと菅原さん!! ………ごめん栗郷君」  菅原と女性に呼ばれた男は、こちらに背を向け何処かへ行ってしまった。  その後を女性がこちらに軽く頭を下げて追っていった。  残された真尋と栗郷。  何やら栗郷はあの男性と折り合いが悪いようで、真尋は大変そうですねと声を掛けると、苦笑した。 「菅原(すがわら)さん……おっさんの方な。 あの人成り上がりタイプっぽいから俺みたいな七光りタイプは嫌いらしい。 あと、妖を相当嫌悪してるっぽいな」  今回彼らと初めて組んだが、菅原は名門一族の栗郷に対してあまり良い印象は持っていないようだ。  更には妖の事が相当嫌いなようで、例え天明道所属の者でさえ、混血ならば良く思っておらず、ここに来る道中に不快だと愚痴っていた。  女性の方の志田(しだ)はどちらでも無いようだが、年長者の菅原にはあまり強く言えず、周りの顔色を常に窺っている。  
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