420人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
プロローグ
俺の願いはただひとつ。
もうどこにも行かないで。
ずっと、傍に居て。
おじいちゃんになっても、ずっと。
死ぬまで光と一緒に、音楽を続けたいんだ。
まるで小さな子どものように泣きじゃくりながら、親友・勝行はそう言った。
親に捨てられて、要らない子と言われた俺を――今西光を「愛してる」と抱きしめながら。
それは途方もない未来の話。
勝行はいつも俺の隣で、うんと遠い先を見ている。
俺は苦手だ。未来は見渡す限り真っ暗で何も見えないし、怖くていつも目を伏せる。
そこには必ず「死」と「別離」が音もなく迫ってくることを知っているから。あいつに置いて行かれないよう、情けなくしがみ付いているだけ。
勝行はいつも数歩前を進んで道筋を作り、時折振り返っては俺に手を差し伸べてくれる。
ゆっくり、ゆっくりしか歩けない、できそこないの身体に寄り添って。綺麗な歌声で俺を呼ぶ。
「おいで、光」
そんな優しい男がもし、自分のせいで不幸になるかもしれないと気が付いたら……?
俺は一生、この人生の選択を後悔するだろう。
そして何度も何度も、感情を歌にのせて祈り続ける。
どんな未来が訪れても、君は幸せでいてくれますように――。
最初のコメントを投稿しよう!