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 20年近く住んでいたはずの実家なのに、向かう足取りは重くすでに疲れていた。思い返せば朝から電車に乗り、飛行機で1時間弱、さらにまた電車にバスと公共交通機関三昧だった。周囲を見渡せば、田んぼや畑ばかりでその先も山に囲まれている。遠くからは牛の鳴く声が聞こえて戻ってきたことを実感する。舗装されてない道を強引にキャリーケースを引きながら進んでいると、目の前の家から人が飛び出してくる。 「ねぇね、おかえりんさい」  Tシャツにジーンズ姿の妹が大きく手を振った。その腕は日焼けして黒い。環境でここまで変わるんだなぁ。 日焼け防止のアームカバーを見ながら、妹の方へ歩み寄る。 「5年ぶりくらいだっけ。元気だった?」 「そりゃ、もちろん元気よぅ。それよりも早くおばあちゃんに会わせんと」  妹は私の腕を掴み引っ張ろうとした。その瞬間、最後に会った日のことがよぎる。  病室のベッドに座っている祖母。私が声をかけると驚いたように目を開く。 『・・・・・・あんた、誰?』  頭の祖母を消すように思わず妹の手を振り払う。妹は気まずそうに、行くあてのない手を下ろした。謝罪も言い淀んでしまった私はそのままキャリーケースを引き、妹の前を歩く。 「印鑑送ってくれないから来ただけだから、すぐ戻るし」 「そっか、そうだったね」  とぼとぼとついてきながら落ち込んでいるのが背中からでも伝わった。本当にすまない、というか元をたどれば親が悪いのに。
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