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目をあけると男はロープを持って幹のコブに右足をかけた。左足。また右足。絶妙な位置にコブがある。いい感じで男はかなり高いところまで上ってロープを枝に巻きつけようとした。
「やめて」
男はぎょっとしてあたりを見回した。誰もいない。
空耳か……。男は気を取り直してロープを巻きつけようとした。
「やめて」
頭の中にはっきりと声が響いた。
「空耳だ。死を恐れる気持ちが幻聴を呼んでいるのだ。勇気を出せ、俺」
「バカかお前」
ええええ、男は驚いてあたりを見回した。男のような女のような、判別のつかない声が頭のなかに響く。
「桜の下には死体が埋まっている、埋まりすぎている」
ひいいいい。男は恐怖に満ちた声をあげた。
「死ぬんだからそんなに大げさに驚かなくてもいいんじゃない」
それもそうだが
「どちらさん」
「桜」
「は?」
「桜だ」
「ええ?」
「桜だっつってんだろうが」
「というと、この桜様でいらっしゃいますか」
「そうだ」
「桜様。あの、ちょっとお願いがあるんですけどぉ」
「ここで首を吊って死にたいというのであろう。構わぬ」
「うわあ桜様、さすがですね。でも惜しいな。あと少し」
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