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― 結婚式当日 ―
格式の高い黒留袖を着付け母親として凛とした面持ちで娘の晴れ姿を見守るべくホテル客室を出発する準備は万全だ。
式場と一体となるホテル故、朝から慌てることなく娘は先に部屋を出てヘアメイクとウエディングドレス着付けへと向かっていた。
私は何度もドレスの試着に同席していたので娘のウエディングドレス姿は知っている。
それ故にまだ一度も目にした事の無い一人娘のドレス姿を目に主人はどのような表情をするのだろうか?
口元を緩めながら、いたずらな眼差しを主人へと向ける。
「さぁ、あなた、そろそろ時間ですよ。
どっちが先に涙を流すか勝負しませんか? 私は負けませんからね」
出発の直前まで何もせず、ずっとソファーに座る主人。
私はギュッと主人を抱き寄せ瞳を閉じそっと呟く。
「あの子が恋をして素直な気持ちで選んだお相手です。お父さん、最後まで笑顔で祝福してあげましょうね」
長い沈黙の後……、
『そうだね……』
抱きしめた主人の遺影から微かにそんな声が聞こえた気がした……。
娘の愛した人との結婚を天国で心から主人が祝福してくれている。
霞が十二歳の誕生日を迎える二日前、主人は不慮の事故により他界した。娘へ宛てた手紙が父親としての最後のメッセージとなった――。
「あなたの想い……、
ちゃんと届きましたよ……」
遺影に零れ落ちる一粒の雫……、
「あっ……、あなた……、
私ったら……」
更に溢れ出す涙をそっと拭う。
「あなた……、どうやら二人の勝負はお父さんの勝ちのようですね」
霞はきっと幸せになります。
だって、私たち夫婦の大切な娘ですから。
― Happy Wedding ―
そして――、滞りなく終えた披露宴。
見上げた空は愛し合う新郎新婦の幸せをいつまでも願うかのように、二人をあたたかく包み込んでいた。
『お父さん――、
ありがとう。
わたしたち……、必ず幸せになります』
二人の幸せを、 永 遠に……
― 完 ―
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