果物

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 私は名前も知らない少年に強引に渡した。 「はい、これ。どうぞ!」  少年はバスケットを受け取った。  中身を上から覗いて首を傾げる。 「これ、苺だ。たくさんの苺」  私は笑顔で少年に話しかけた。 「そうだよ。私が大好きな苺です。こんなにたくさんの苺を君にあげます。嬉しいでしょ」 「僕、苺が嫌いなんだ」  私は驚いてひっくり返りそうになるのを我慢する。 「そんなはずはないよ。苺はおいしい。私は苺が嫌いな人に会ったことがない。それに苺が嫌いっていう人、少ないと思う。でも、君はその一人なの?」  私は少年の顔を窺ったが、返答は困ってしまうものだった。 「その一人です」  私はあからさまに肩を落とした。 「そっかー、それは残念。だけど気になるなあ。じゃあ、なんで、私が働いている果物屋に、毎日来ていたの?」  少年が下を向いて泣きそうになりながら、ぽつりぽつりと話した。 「お姉さんが……いたから。苺は嫌いだけど、お姉さんがいたから」
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