『若恋』フェイクな恋

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「3月決算、調整してみたがなかなかにいい数字が出たぞ。この分なら社員にも3月末に特別ボーナスが出せる。税金に取られるより頑張ってくれてる社員に出してやりたい。な、そうだろ?玲夜」 友人と一緒に会社を立ち上げて8年。 これまで順調に業績を伸ばしてきた。 「もちろんだ。営業も好調だしな」 自他共に認める順風満帆。 ただ、 「さあてと、玲夜。俺はもう帰るぞ。愛しい妻が家で待ってるからな。羨ましいだろう?羨ましかったらおまえも早く嫁もらえ」 友人はそういうと飛んで帰って行った。 そう。 最近は周りが早く結婚しろとうるさくて 頭が痛い。ため息ばかりが増えてく。 そんなある日。 「おまえの名前で婚カツパーティーに参加しておいてやったぞ」 「は?」 「真面目に探せよ」 やられた! 手渡されたのは、今夜参加の婚カツパーティーのチケット。 「やだよ、誰が行くかよ」 「そういうと思って、もう支度はしておいた♪」 友人に無理矢理に連れていかれた婚カツパーティーはやっぱり退屈で、顔と年収だけに寄ってくる女ばかりで帰りたくなった。 「香水臭い……」 鼻に染み付いて麻痺している。 会場からバルコニーへ出て、目の前に、黒髪ロングの見覚えのある女が。 高校まで一緒だった幼馴染みの梓だ!間違いない! 懐かしさから話しかけたが、 「それどころじゃないの」 あまりにも素っ気ない態度で流された。 梓とは、高校時代一番仲がよかった。 さっぱりした性格の割に可愛らしいとこもあって、付き合いやすかった。 大学が別々になり、それからは年賀状代わりのLINE程度だったが。 呆気に取られてたら、 「離して下さいっ!」 「梓、婚カツパーティーなんかに参加してどうするのさ。無駄だよ」 「やだ!手を離してっ!」 絡まれているのを見て放っておけなかった。 周りは何事かと騒ぎになってきている。 「よせよ。嫌だって言ってるじゃないか。離してやれよ」 「おまえは誰だ?関係ないヤツは口を挟むな」 梓に絡む男は紳士そうに見えて違った。 「口を挟むに決まってるだろ。これ、俺のだから」 「なに?」 「俺のだから。連れてく」 強引なその腕を払い除けると、早足で梓を会場から連れ出した。 やっちまった。 内心そう思いながら会場を後にした───
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